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Museum Quartier小劇場ロビー


公演とイベントレポート Part 1

danceWebプログラム(レポート1を参照)参加者にとって、公演鑑賞は重要なアクティビティの一つです。ImPulsTanzの4週間の期間に、公演は毎晩、最低2つは行われています。 Museum Quartierという大きな美術館に入っている2つの劇場他、フェスティバルと提携している4つの劇場で行われます。始まる時間が微妙にずらされているため、緻密に予定を組めば、なんとか、全部の公演がみられるスケジュールになっています。劇場までの自転車での移動も考えると、さすがに、連日のワークショップに加えて、それを全部みることは体力的に不可能に近いので、観たい公演を優先してスケジュールを組み、リストをつくります。私も、最初の方は欲張って、あれもこれもみたい、と計画していたのですが、3週目あたりから、頭に何も新しい情報がはいってこない、という麻痺状態になりつつあったので、泣く泣くスキップした公演も少なくありませんでした。私が鑑賞した26公演のうち、いくつか、自分の中で気になるものを、レポートしたいと思います。

[8:Tension]―若手振付家シリーズ

[8:Tension] とよばれる、若手振付家のシリーズでは、主にヨーロッパから選抜された8人の若手アーティストが、30分から45分くらいの作品を発表します。中堅や大御所の振付家、カンパニーの公演とはちがう、荒くともむきだしのエネルギーと、何が起こるかわからないワクワク感を毎回経験できるので、このフェスティバルの中でも、私が最も好きなプログラムの一つです。何より、世代の近いアーティストの作品を観るのはとても刺激的で、観た後、すごく、エネルギーが身体に充満するのです。公演後、気軽にそのアーティストと話して意見を交換したりもできるので、なおさら面白いです。8作品の中から、3つを抜粋して簡単に紹介したいと思います。

Cecila Bengolea & Francois Chaignaud
(セシリア・ベンゴリー、フランソワ・シェニョー)
《Sylphides(シルフィード)》

フランスとアルゼンチン出身の2人によるこの作品は、公演初日後、私の周辺でかなり話題になっていました。みる予定ではなかったのですが、急遽、予定変更して、飛び入り鑑賞しました。
まず、舞台上に乗っているのは、3つの黒光りする大きなビニールの枕。しばらくすると、事務員のような女の人が、掃除機でそのビニール枕の空気をぬいていきます。枕は圧縮袋のように、ぺったんこ、しわしわになって、舞台に取り残されます。作品がはじまってから、ここまでで、すでに15分くらい経過していたと思いますが、なぜか、ずっと緊張感が持続していました。そして、そのぺったんこ圧縮袋をし~んとした状態で見ているうちに、なんだか、でこぼこがある気がしてくるのです。黒いからよく凹凸の具合がわからないのですが、それが、人型に見えてきちゃうのです。それは、皆が共通のようで、なんとなく、観客の間で、「えっ、もしかして、あの中に、人はいってる? まさかね…?」という雰囲気が伝染していきます。満を持して、ぴくっと、その圧縮袋が動いたときには、「うわ~やっぱり」という共通の気持ちに観客が包まれます。息をどうやってしているのか(たぶん短いストローが出ていたと思います)、本当に危険でないのか、はらはらする気持ちも一緒です。
この作品がすごく好きだな、と思ったのは、その衝撃的な前半のあとに、きちんと、展開が用意されていたことです。このあと、再び事務員のお姉さんが空気を入れて、枕に戻します。観客は、もう中に人がいるとわかっているので、3つの物体はただの黒い枕ではなくなっています。その物体感を利用して、ワゴンに乗っかったまま、運ばれたり、枕同士の関係を遊んでみたりと、お茶目な行動が続きます。前半で、マックスに張り詰めた緊張感が嘘のようにほぐれて、私も無音の中、いっぱい笑ってしまいました。
そして、最後、予想していなかったのですが、枕を切って中から、まさに、産まれた~という感じでパフォーマーが半裸ででてくるのです。そして、今まで無音だった中、唐突に、叙情的な音楽がかかり、パフォーマーはこれでもか、というくらい、表現的に踊りまわります。ちょっと、ぬめっとした、ジャズダンス風でもあり、その、微妙なセンスが、私は大好きでした。特に、振付家の一人フランソワは、完全に女性と思わせる、華奢なルックスで金髪の長い髪をふりみだして踊っている姿が印象的でした。また、余談ですが、彼は、室伏鴻さんのクラスを一緒に受けていたとき、長袖長ズボンの服装の受講生が多い中(急に倒れたりするエキササイズもあるので皮膚を保護したい気持ちになるため)、超ミニの短パンと、ノースリーブという、大変、露出度の高い格好で毎回舞踏に臨んでいて、まぶしく光っていました。[8:tension]ならではの、大胆で新鮮なこの作品は強烈なインパクトを残しました。

Pieter Ampe & Gulherme Garrido
(ピーター・アンペ、ギリェルメ・ガリド)
《Still Difficult Duet》

2006年のdanceWebプログラムで初めて出会ったという、ベルギーとポルトガルの男性ダンサーによるデュエットは、そのアナーキーな雰囲気と、漫才のような絶妙な2人の掛け合いで、終始、客席からの笑いが絶えませんでした。冒頭、コートを着て、カジュアルな姿で観客の前に現れた2人は、全く普通のテンションで、「まあ、今から作品をやりますので、楽しんでみていってください」といたずらっぽく話します。そして、くすくす、お互いを小突きあいながら、少しずつ、服を舞台の隅で脱いでいき、トランクス一枚になります。その派手な柄のトランクスは、もちろんお揃いです。そしてトランクスを脱いで、裸になるのですが、その前に、なんとなく、親しい関係が観客との間にできあがっているので、他の作品でみる裸とは違って、新鮮な気恥ずかしさを感じてしまいました。そのあとは、2人はライバルといった嗜好で、仲良く踊ったり、協力して、ポーズをつくったりしながらも、なんとか、相手を蹴落とそうと、細かい邪魔が仕組まれます。それが、エスカレートしていき、ほぼ、本気での、たたきあい、ひげの抜きあいといった、観ていても痛そうな、2人の掛け合いがつづきます。2人の体は、たたかれすぎて、真っ赤な後がいっぱいついていました。無音の中、その2人にしかわからないような間や、時々発する素の声、また、どこまで本気かわからない空気感が、観客を引き込んでいました。作品としてのダイナミズムや奥行きを感じることはなかったけれど、強烈なビジョンを打ち出そうとする作品が多い中、この裸の男性2人のダンスは、みんなをほっとした表情にさせてくれる親しみやすい作品でした。

Andrea Maurer & Thomas Brandstatter (AT)
(アンドリア・マウラー、トーマス・ブランドステッテル)
《Performance must go》

オーストリア出身のパフォーマー、アンドリアと、ビジュアル・アーティストのトーマスによる、スライドを使ったイメージ遊びのような作品。実は、アンドリアとは、NYの振付家DD Dorvillierの作品に一緒に出演したことがあり、コミックやイラストに興味があるという話も聞いていたので、漠然とスライドを使うのかな?という作品像が、私の中にすでにあったのですが、実際のスライドの数と、その配置の仕方は予想外のものでした。2人は、イメージの工作員といった趣で舞台に現れ、淡々と装置をセットしていくのですが、スライドが映し出される位置も、床に置かれた3つの小パネルの他に、一見無造作に置かれている道具を利用してバックやサイドなど、より3次元を感じさせる具合に移り変わっていきます。映像を使ったハイテクノロジーな作品とは全く異なり、スライドを多用しているにも関わらず、2人のパフォーマーがマイペースにイメージを配置していく過程が、手作り感や、マニュアルの危なっかしさなど、ほのぼのした雰囲気をかもしだしていました。4コマ漫画風の、ユーモラスな落ちのついたスライドもあれば、視覚がそれをとらえるより先に、スライドが次々と移り変わり、ストロボライトのような役割を果たす場面もありました。
もう少し、身体との関係が濃密になると、劇場で観る作品としては、より見応えがあるかな~と、思いましたが、2次元のイラストレーションを使って、それをより空間的に広がりのあるものへと変換させていく試みは、とても興味深いものでした。ギャラリーなどのオープンスペースで上演されると、よりその空間的アプローチが見えて、面白いかなと感じました。

[にしむら・みな|ダンサー・振付家]