Body Arts Laboratoryreport

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公演とイベントレポート Part 3

Maguy Marin(マギー・マラン)
《Description of a Combat》

この作品を観る数日前に、1981年に創られた彼女の代表作のひとつ、《MayB》も観劇しました。生でみることができて感動でした。ほぼ、私にとっては古典をみるのに近い感動でしたが、Becketの『ゴトーを待ちながら』に共通する、空虚感、どこにも行き場のない気持ちのようなものが、非常にシンプルだけど、マギー独特のリズムと人間描写で、ぐさっと、凝縮されていました。普遍的なテーマを扱っている作品で、観客も、熱狂的に、拍手を送っていました。この時代のマギーの作風は、音と同調して作品がすすむような感じもあり、現在の彼女の作品性とは、その点で異なるな、と感じました。

そして、今回の新作はある意味、スキャンダラスなものになってしまいました。というのも、はじまって、15分くらいたったところで、観客の一人が、大ブーイングをはじめ、それが、全体に広まり、大喧嘩のようになってしまったのです。「何で踊らないんだ」とか、「帰れ~」とか、露骨に野次を飛ばすヨーロッパのお客さんに、私は、怖くて、身がすくんでしまいました。つまらなかったら、帰ればいいのに、と思ってしまったのですが、今回の場合は、観客が、そのように意思表示したくなる理由がありました。作品は、テキストベースで、ダンスは一切ありません。1時間半あるその作品は、全てフランス語で話され、さらに字幕なしだったのです。観客のほとんどは、フランス語圏でない所から来ているので、完全に取り残されてしまうかたちとなりました。もし、自分が、高いお金を払ってチケットを買っていたら、確かにそのように怒りをぶつけたくなるのかもしれないな、と思いつつ、人生の中で、ここまでひどいブーイングと野次の嵐、ましてや、それに反対する人も出ての大喧嘩状態、という場面に遭遇するのは初めてで、私の方が半泣きになりそうでした。ブーイングが出る前は、私も正直、目の前の作品から意識が遠のきかけていたのですが、ブーイングがはじまりだしてからというもの、逆に姿勢を正して、少しでも、マギーの意図するところを汲み取ろうと、意固地なくらい集中しました。

作品のテーマとなっていたのは、中世の戦争のようで、舞台はずっと薄暗く、赤い絨毯のように数十枚もの布が敷かれており、パフォーマーは、淡々と、テキストを読み、ポジションを変えていきます。面白いのは、パフォーマーが、徐々にその布を運んだり、自分の肩にかけたりして取り去っていくのですが、舞台が薄暗いために、その布との関係で、パフォーマーがいろいろなキャラクターに見えてくるのです。僧侶だったり、兵士だったり、女中だったり。たぶん、テキストとの関係がわかれば、より面白いのだろうけれど。そして、気づくと、赤い絨毯だった床が黄金に変わっています。最後には、その黄金の布もすべて、取り去られ、床に、ゴロゴロと金属の人型の鎧だけが転がっているのです。更に、目を凝らすと、その影に、座り込んでいる、2人の人間が……というところで、舞台は終ります。個人的に、魅惑的な要素のたくさん詰まった作品だと思いましたが、やっぱり、テキストの意味がわからないのはきつい、と思いました。作品終了までに、3分の1ほどの観客は会場を去っており、カーテンコールのときにも、激しいブーイングが起こりました。誇りと責任をもって、カーテンコールに堂々と立つ、マギーの姿は頼もしいものでしたが、同時に少しトラウマになる観劇体験でもありました。


ImPulsTanz / danceWebプログラムに参加しての感想

danceWeb プログラムに参加するため、6週間近くをウィーンで過ごしたのですが、最初の1週間は、次から次に入ってくる新しい情報や、初めて出会う人たちとの共同生活、朝から深夜まで続くアクティビティの多さに、あと、1か月以上も、本当にこれを続けることができるのかな~と、心細い気持ちでいっぱいでした。体力的に私のネックになったのは、自転車移動です。普段は、自転車大好きなのですが、ワークショップのあるスタジオまで急な坂の多い道を自転車で30分こがなければならなく、それを、朝起きたての状態や、ワークショップ後の疲れきった状態で、毎日つづけるのは、まさに私にとって修行でした。でも、それは、 danceWebberみんなが同じ条件だったので、文句を言ったり、励まし合ったりしながらがんばれました。よく考えると、このように、同年代の、同じことに興味や情熱がある人たちと一緒に1か月以上もの間みっちり過ごすという経験は、人生で初めてで、この先にも、もうないことかもしれません。

そして、ImPulsTanzから戻って、2か月以上経った今、ようやく、フェスティバルで体験した物事や、新しい情報を、自分の中で消化してきたように思います。一歩、外に出ると、こんなにも、自分の知らない世界が広がっているんだな、という興奮と混乱を、この6週間の研修で久しぶりに味わいました。多くの新しい友達との出会いはもちろんのこと、「拒否反応→好奇心→吸収→混乱→消化」という具合に、変化していく自分の反応と、じっくり格闘できたことも、自分にとって大変貴重な経験だったと思います。

今後、どのようなかたちでこの経験が活きるのか、また世界中にちらばった仲間とどんなふうにつながっていくのかを考えると、これからも、パフォーミング・アートにたずさわっていこうという意気込みと楽しみが、一つも二つも増えた感じです。またの機会を見つけて、ImPulsTanzフェスティバルには、是非、もう一度参加したいなと思います。

[にしむら・みな|ダンサー・振付家]


搬送用エレベーターで行われたサイト・スペシフィックのパフォーマンス

danceWebプログラム2009のmentor(担任アーティスト)、フィリップ

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