Body Arts Laboratoryreport

皆さんは、スロベニアという国をご存知だろうか? 正式にはスロベニア共和国。1991年に旧ユーゴスラビア連邦から独立した国で人口200万人。私はこの国に住みはじめて4年目になる振付家・ダンサーである。

1.

クリエイション(作品制作)の流れ

スロベニアにおいて、プロダクションを通さず公演をすることは不可能と言っていい。なぜなら、作品制作は助成金を必要とし、そのほとんどの助成元は、個人からの申請を受け付けないからである。もちろん後述するアーティスト・ステイタス保持者は、個人でも申請できるが、それでカヴァーできるのは申請者個人の支出のみであり、またほとんどの劇場は、個人のプロポーザルを受け付けない。従って、振付家なりダンサーなりが作品制作を始める場合、最初にしなければならないのは、作品制作を共にしてくれるプロダクションを見つけることである。私はルブリヤーナに拠点を置くダンス・プロダクション〈フェデラツィア〉[*1]とゆるやかな契約関係を結んでおり、ほとんどの助成金申請・作品制作はこの〈フェデラツィア〉を通して行っている。 以下がおおまかなクリエイションの流れである。

1. 立案―公演、公演に準ずるイベントのアイデアをできる限り書く。

2. 予算―書き上げたプランに基づいて詳細な予算書を作成。

3. 公演地―公演場所を決める(これはもちろん立案当初から行っているわけだが、実際に劇場と交渉し、契約書をもらう)。

4. 申請―計画書、予算書、契約書をプロダクションに持ち込み、プロダクションは他の公演計画と一括して、スロベニア文化省、ルブリヤーナ市等に申請する。

5. 準備―申請が通った場合、たとえばスロベニア文化省は、助成金が2分割されて支給される。準備段階での支出はすべて特別な領収証をもらい、随時もしくは一括して領収証と引き換える。

6. 公演―契約した劇場で公演する。

7. 清算―公演後、公演時のチケット収入、劇場使用諸費用を加算し清算する。

2.

助成金とクリエイション

公的助成には、主にスロベニア文化省、スロベニア文化活動基金、そしてルブリヤナ市、マリボル市などの地方自治体から等があり、それぞれの助成には1年、3年、4年継続助成、国外公演助成等、いろいろなカテゴリーがある。申請の締切日も様々である。これらの助成金を受けられるかどうかに作品を制作できるかどうかがかかっている。

2010年からの私のダンス・クリエイション《人々の間の幽霊》は、同年〈フェデラツィア〉を通して4年継続助成をスロベニア文化省からうけた。従ってこれについては毎年申請する必要はない。年40万円ほどである。契約した劇場は、ルブリヤーナ市内のスパニッシュ・ソルジャー。この劇場は、カンパニー・レジデント・シアターであり、レジデント・カンパニーの〈EN-KNAP〉は、スロベニアでただひとつ存在する、ダンサーに固定給を払って活動しているコンテンポラリー・ダンス・カンパニー。この劇場と〈フェデラツィア〉は、私の作品の上演にあたって、Co-productionという形で契約しており、劇場使用料は、人件費(照明・音響技術者、掃除婦(夫)、チケットもぎり、セキュリティ)を別にすれば一切かからない。人件費は、3日間の契約(仕込み一日、公演二日)で500ユーロほど。

これと並行して、私は〈フェデラツィア〉のメイン企画であるインプロヴィゼーション・ダンス・リサーチプロジェクトのコア・メンバーにもなっている。これもスロベニア文化省の4年継続助成を受けている。このリサーチ・プロジェクトは、2010年から2013年まで、毎年3月から11月までの9か月間、毎月3日間から5日間ほど行われ、参加アーティストへは、毎月のセッションでは日当というかたちで給料(1時間10ユーロ)が支払われ、プレゼンテーションへの参加へは、出演料(150から200ユーロ)が支払われる。交通費は基本的にカヴァーされないが、交通費に相当する領収書を他の支出で発行し、現金と引き換えるという裏技もある。昨年は、アメリカからリサ・ネルソン[*2]を招き、彼女のアイデアでのセッション、そしてルブリヤーナ市美術館でのファイナル・プレゼンテーションを行った。

私は今年、これらの他に三つ、他の団体を通して企画を進めている。

1. 《Dance of Memory》。制作団体は、ルブリヤーナ市に拠点を置き、社会福祉事業関連の活動を行っている〈SEZAM〉(セザム)。[*3]助成はスロベニア文化活動基金から1,000ユーロ。デイ・ケア・センター(こちらでは《退職した市民の家》という)で生活するお年寄りにビデオ・インタヴューをし、そのビデオをもとにして、お年寄りと共にダンス作品を作るという企画である。助成は受けたが、残念ながらこの金額では劇場公演は望めないので、どこで発表するか現在検討中。10月初旬の作品上演までセンターでのインタヴュー、ワークショップを定期的に行う。

2. ルブリヤーナ市にあるユース・ホステル〈CELICA〉(ツェリッツァ)内でギャラリー運営とアート・イベントの企画を受け持っているグループ〈SESTAVA〉(セスタヴァ)[*4]との提携ダンス・ワークショップ。助成はスロベニア文化活動基金から300ユーロほど。〈セスタヴァ〉が運営するギャラリー〈シュラチシュチェ〉でダンス・ワークショップを行う。

3. スロベニア人振付家、グレゴール・カムニカル[*5]とのデュオ・ダンス作品《A.Void》。サミュエル・ベケットのテキスト《Worstward Ho》をもとにしたダンス作品。この作品は公的助成は受けていないが、ルブリヤーナ最大の劇場、サンカール・ハウス主催公演として今年9月に上演される予定。会場費、人件費、宣伝費はすべてサンカール・シアターがカヴァーし、出演料は入場料から支払われる。もし評判がよければ、2012年にも、ポスト・プロダクションとして上演が継続される。他の助成金申請のチャンスもまだ残っている。2011年2月、和歌山県立近代美術館、横浜ダンスコレクションEX ショーケースでも上演した。

  1. フェデラツィア FederacijaBackhttp://www.federacija.net
  2. リサ・ネルソン Lisa NelsonBackアメリカの振付家・即興舞踊家・ビデオ作家。
  3. セザム SEZAMBackhttp://zdruzenje-sezam.si/sezam
  4. セスタヴァ SESTAVABackhttp://www.souhostel.com/index.php
  5. グレゴール・カムニカル Gregor KamnikarBackスロベニアの振付家・ダンサー、〈フェデラツィア〉ディレクター。