Body Arts Laboratoryinterview

スペース

―寺田さんは、具体的にどういう流れからいまの活動に至ったのですか? バイオグラフィを見ていないのでわからないのですが。

寺田 芝居からなので、下北沢などを拠点にした小劇場系劇団の活動に参加すると同時に、ダンススタジオに通ったりしながら、そこの作品に出演してました。どれも面白かったのですが、自分とは何かちょっと違うのではないかと、腑に落ちないように感じていました。そして、自分で作品を創ったらどうなるんだろうと、セッションハウスの「シアター21フェス」[*1]で発表したりしていました。そこで作品を貯めていたときに、セッションハウスの伊藤直子さんに、単独公演をやらせてもらえるようになり、いままでの作品は10分ほどのものでしたが、1時間ものを創ることができた。それから、ギャラリーや廃校になった小学校でも自分で企画して発表するようになりました。

―廃校になった小学校はどこですか?

寺田 三宿の世田谷ものづくり学校です。

―トレーニングはしているんですか?

寺田 オープンクラスに通ったりしています。

―いろいろな先生のレッスンを受けることによって、自分を発見することはありますか?

寺田 そうですね。体を突き詰めていくと、あまり多様化はしないと思うのですが、先生によってアプローチの仕方が全然違います。受けているクラスも、バレエ、コンテンポラリー、単純に体をトレーニングするためのクラスなど、いろいろなアプローチで体を見ていくので、抜け道があり、こっちでわからなかったことが、違うところでわかったりする。

坂田 方法論を聞いている感じですね。私はその先生のレッスンが自分にとって魅力的かどうかで選びます。教える内容に支払ってもいいかどうか(笑)で割と選ぶかな? その先生の作品に出たいから受けるというのとはちょっと違う。

―たとえば日本だと、ずっと同じ先生のもとに所属することで、自分のアイデンティティを見出しているケースも多いと思います。その辺はどうですか?

寺田 やっぱりそうでしたよね。内面的に若いときはカリスマに惹かれるじゃないですか。自分の体がどうのこうのと思うのはそれから先のことで。

―セッションハウスは自分にとって実験的な場所ですか?

寺田 今はセッションハウスに行っていないのですが、あれだけ踊りの経験のあるの方がスタッフをしていることで、振付家をすごく理解してくれる。また、確固たる作品じゃなくても、実験的にも発表できる場を提供してくれること、ちょっとやりたいときに受け入れてくれることは本当にありがたい。あそこから発展した人は、いっぱいいるんじゃないかな?

―システムなどはどんな感じですか? セッションハウスに限らず、もっと、こうなってほしいと思うことはありますか? 稽古場はだいたい区民会館ですか?

寺田 そうです。「けやきネット」[*2]です。ただ、やっぱり団体が増えているのか取るのが大変。

―申し込みは、1か月くらい前からですか?

寺田 3か月くらい前で、抽選があります。また芝居やダンスができるシステムが限られているので、会議ですと言って入ったりすることもあります。生音との場合は、かなり制限されます。稽古場は、本当に誰もがほしいと思っているのではないでしょうか。

―僕の考えている、作品制作において創作プロセスを重視したプロジェクトが幾つかあります。最初から大きい作品を発表するのではなくて、少しづつ創って、それに対して場所の提供や、その間に、いろいろな人からのフィードバックを通してブラッシュアップすることをサポートしようとしています。

寺田 それは重要な気がします。セッションハウスにしても、単純に、作品を出しますとなったときに、スタッフに見せるのは約1週間前。その前にだいたいの人が、自分ひとりで、まったく誰も眼の触れないところで稽古して、照明合わせのときにポンとやるケースが多いと思います。そこから感化され、発展すればいいんだけど、だいたいの人が発表して終わり。その繰り返しで、モチベーションが育っていかない。もちろん、やる気があれば自分でプロデュースしてやればいいんだけど。なんか、ちょっと淋しいです。

―これからは、自分がカンパニーを持つなどして、東京での活動を定着させていきたいですか? 自分のゴールをどう考えていますか?

寺田 自分は踊りも芝居も好きだけど、それで演出となると、制作も自分でやらなければいけないし、すべてに手が回らなくて、結局、踊りができてるかというと、それが一番最後になってしまう。それがすごく苦痛で、できることならば、私は創る側に回りたい。

―だいたい振付家は踊らないですよね。踊ってしまったら、自分の作品がわからなくなってしまう。

寺田 なかなか、できる人と巡り会わせていないので、どうしたらいいのかな~と。

創作のシステム 1

―昨年(2008年)、トヨタ芸術環境KAIZENプロジェクトで助成されたもので、振付家が、100時間のリハーサル期間と10万円の制作費を与えられて、オープンリハーサルなどでのフィードバックを通して公演を行なうプロジェクト[*3]があるのですが、いいでしょ?

寺田 すごく素敵ですね。

坂田 素敵。

―たとえば、パブリックなスペースでそういう企画がもっとあるといいですよね。それから、振付家にある程度報酬も払って、無料の公演を定期的に行ない、一般の方にコンテンポラリーダンスを見てもらう機会をもっと設けたいと思っています。

寺田 最高ですね。自分で企画を打つとなると資金繰りが大変だし、助成を受けるには公演を年に2回やらなくてはいけないとか、ある程度の実績がないと、規制が高いところにあってすごく大変。もうちょっとこじんまりといきたい。

―ダンス専用の劇場は日本にはない。制度が根本的に間違っています。寺田さんや、坂田さんのような、これから作品を作り続けていきたいアーティストはたくさんいますか?

坂田/寺田 どうなんでしょうかね?

―そういうシステムを作ったら、アーティストはたくさん集まりますか?

寺田 それはあると思います。今は厳しい状況ので、それでやらない人は多いのではないでしょうか。

坂田 必然的に、私は稽古場にいる時間が多いほどいいです。一日中いたいです。

寺田 たとえ厳しい状況でも、やっていける人じゃないと駄目かもしれないのですが、毎日毎日バイトして、いつも赤字みたいな、その中でやっていくことで、モチベーションが変わってくると思うんです。ただ、そうしたハングリー精神があっていいんだけど、その境目が難しい。ハングリーだけでもどうなの?みたいな。

坂田 確かにそう思います。突き詰めるのはいいんだけど。

寺田 もちろんハングリーでありたいんだけど。

―あまりにも大変。こんなにコンテンポラリーダンスをすることの大変さ加減を、一般の人にもわかってほしいし、評論家、オーガナイザーの方々が、こういう実情を知っているのか甚だ疑問。皆、私欲のためにやってるんじゃないの?みたいな。

坂田 私はフラメンコのダンサーがいるスタジオでも働いていますが、教えて、ショーの仕事もあって、お金になっていく人もいますね。

寺田 コンテンポラリーは、創っていても、その先に光はなく、本当に自分の熱意だけでやっている。それって、素晴らしいことだけど、もうちょっと生産的であってもいいと思います。経済的にも循環していく流れみたいなものが、もっとあってもいいんじゃないかと。最終的に、稼げればいいのかといったら、そういうことではなくて、じゃあ、何でやっているのといえば、本当に自分のやりたいことやっていますとしか言えないみたいな。それがないといけないと思うんだけど、それでどう?って、なんか暗いというか。

―コンテンポラリーダンスのアーティストは、一般市民として社会に言葉をもっと残さないといけない。僕は、今まで築かれてきた日本のダンスの土壌を批判したいし、こんな緊急事態に、評論家、オーガナイザーは気づいていないし、まったく勉強していない。またニョーヨークでは、Kitchenという劇場で僕のパートナーが公演したときは、お客さんの80パーセントが振付家なんです。それは、皆、ダンスでの生活が大変な中で、ダンスで何かを探し求めていることがあり、それでサポーティブになっているのです。それは、いいことだと思います。

寺田 日本は全然逆で、創っている人が閉鎖的な気がします。もっとアーティスト同士がお互いを知ることはあったほうがいいですよね。

―Kitchenはメジャーなので、お客さんいっぱいです。

寺田 もちろん踊ることや、体を追及することは内側に籠ることだけど、それと閉鎖的なことは、また別なんです。それは日本人的陰なところでもあって、真面目なんだけど、もうちょっとオープンにならない?みたいなことがあるよね。

坂田 たとえば、お金出すから公演してくださいと言われ、もうちょっとわかりやすいテーマでとお願いされ。絶対ピンクの衣装を使わないといけないとか、絶対その音楽を使わなくてはいけないとか変わったルールがあってもいいかも?(笑)

寺田 自分もその世界にいるくせにと思うんですけど、なんか暗いですよ。

―人が集えば、普通明るくなるよね。

坂田 意外とコンクールとか明るくないというか……。

寺田 コンテンポラリーって意外とお洒落でないな~。

―僕なんか、軽薄ですが、カッコイイことが自分のモットーとしてもあった(笑)。

寺田 でもそれが必要です。

―今、活躍している人でカッコイイ人はいませんか? コンドルズとか?

寺田 近藤良平さんは、すっごく好きです。

―引きつけられる人は?

寺田 私は川野眞子さんが好きです。

―へ~、意外だ。

寺田 川野さんの体が、立っていてそれだけでエンタテイメント性を持っている。たとえば、すごく陰なことをやっていたとしても、必ず人に訴えかけるものを持っている。自分がその方向に行きたいのとは別ですけど。康本雅子さんも好きです。

―どちらかと言うと、エンタテイナー的ですね。トヨタコレグラフィアワードや横浜ダンスコレクションをどう思いますか?

寺田 ここに乗れたらラッキーと思うし、あっていいと思うんです。でも、審査の画一化など、いろいろ問題になっていますよね。トヨタにしても、横浜にしても同じ人が出るとか。でもそれにはそれなりの理由があると思うし、力量がなければピックアップされないのだから、いいんじゃないかと。

―鈴木ユキオ君の例を挙げれば、ユキオ君は、たくさんの小さい企画に出て、少しずつ磨いていくものがあったと思います。それらに乗っかることの、ある意味いい例だと思うのですが、僕は、この日本のシステムには、甚だ疑問です。寺田さんは、「ラボ#20」などのコンペティションにいっぱい出て、乗っかっていくタイプではないですよね?

寺田 そういうタイプではないですね。

―それは何故ですか?

坂田 あまりにも無反省的にビデオを見せに行ったところ、「この作品一回どこかでやったんだ」と言われて、完成されていた作品に対して あまりいい印象をもってくれなかったことがありました。

―それは不思議ですね? どこですか?

坂田 STスポットです(笑)。でも負け惜しみかも。本当にいいものだったら、なにもいわせない強さがあるはずなので。

寺田/山崎 へ~、そうなんだ???

坂田 完成されたものは受け入れてくれない。

寺田 それでも今後、そのようなシステムを利用していく?

坂田 します。それしかないから。これからは、自分のオリジナルなムーブメントを追及(?)したいなと。

―坂田さんの場合は、ムーブメントよりは、最初に自分の世界観を確立したほうがいいと思いますが(笑)。

坂田 そうですね。この間は、自分の中の否定的な感情をモチーフにして作品を作ってみました。そういう方が、人から逆に面白いと言われました。自分の中の、いいものではなくて、嫌なものも出していきたい。子供の頃にあった感情のようなもの。

寺田 私は、今までセッションハウスや「ダンスシード」には作品を出していましたが、そういうコンペには全然出してこなかった。そこに興味はなくて、単純にやりたいことができてればいいみたいな感覚だったんですが、お客さん増えないんですよね(笑)。

坂田 確かに、私も、ものづくり学校の企画で発表したけど、見に来る人が自分の知り合いのダンス関係者しかこなかったかな。

寺田 自分の友達しか来ない。そこで楽しかったよと言われて、それも嬉しいんだけど、もっと一般の人に観てもらいたい。とにかく知らない人の目に触れることが重要だと思うんですけど、これから、いろいろな企画に出る方法しかわからない。そういう企画ではない可能性も、他のジャンルでもいいんだけど、交流が増えたら広がっていくんじゃないかと思う。

―ニョーヨークだと、ムーヴメントリサーチが、ジャドソンチャーチで毎週月曜日に行なうフリーの公演があり、一日に3から4つの15分くらいの作品を、それぞれ振付家が150ドルもらって上演します。そういう公演が、東京駅などパブリックなスペースで定期的に行なわれるといいな~と思います。体育館だと人通りがないし、六本木ヒルズだとメジャーしすぎるし、どこかないですかね?

寺田 駅の構内って無駄に長かったりするじゃないですか。ここは何のスペースだろうと。 そういうスペースでできたら面白いと思います。

坂田 ダンスをもっと身近にすればいいんじゃないかな~。

―場所は重要ですよね。雰囲気があるとか。

寺田 ものづくり学校の視聴覚室とかいいんですよ、ちょっとアートな感じで。行くだけでも何かがありそうな気がする。指輪ホテルが面白いのは、そういう側面が充実している。フライヤーにすごくこだわっていたり。宣伝も重要。五反田団という劇団もチープさを逆に売りにしている。手書きで書いたチラシでも、それが相乗効果になっている。予備知識のない人は、ビジュアルから入る。ダサそうなものは観ない。

坂田 今の時代を考えて作品を創らないと駄目ですよね~。

寺田 今は不景気かもしれないけど、片やチョコレートショップが宝石店のように見えて、自分がそこにいるだけでも嬉しいみたいな――プロデュース能力が発達しているというか……。

―それ日本だな~。

寺田 コンテンポラリーダンスは、作品どうのこうのというのはあるんだけど、その周りに気を遣っていない気がする。

―たとえば?

寺田 それを取り巻く環境ですよね。

―BALは、文字だけのチラシになりそうだけど、それでもカッコイイと言わせるような信念があればいいんじゃない?

寺田 そうそう信念。それにこだわっていればいいんだけど、手が回らなくて、そうなっちゃたとか、お金がなくてそうなったとか、そこまで気がつかない素っ気なさとか。

  1. シアター21(ツーワン)フェスBackセッションハウスが主催する、ノンセレクションの公募による小作品を集めた公演シリーズ。
  2. けやきネットBack世田谷区の公共施設使用案内システム。
  3. 新人振付家のためのスタジオシリーズBack