『セルフ・コーチング・ワークショップ 2010』記録集 刊行関連トーク
Text|下田伊吹+印牧雅子
WWFes(ウェン・ウェア・フェス)2010で開催されたワークショップ・公開制作より11の記録をおさめたドキュメントブック『セルフ・コーチング・ワークショップ 2010』の刊行に関連して、2011年10月にトークを行ないました。
この本は、主に演習内容について、アーティスト自身の手によって書かれた記録(1組を除く)を収録したものです。トークでは、これらをいわば身体技術を伝達するための一次(原-)資料とみなし、どのように批評的・実践的に読解し、論点を引き出すことができるかを主眼に行ないました。そのためのアプローチとして、編集部が、それぞれのワークショップの特徴的な演習からその手法を抽出し分析することを試み、それをもとにダンス研究を専門とするゲストと意見交換しました。以下に、そのトピックスを6つのキーワードからレポートします。
記録集 刊行関連トーク|観察・実験・方法/作品
――ワークショップの演習に注目することで振付家・アーティストの手法を読解する試み
ゲスト:富田大介(神戸大学研究員)、越智雄磨(早稲田大学博士課程)
企画(司会):印牧雅子・岡本拓(記録集編集部)
トピックス
1. 振付家におけるワークショップの位置づけ
– ダンスが発生してくる現場、その内部の仕組みを確かめる場。
– ダンスを昇華させ、再定義するような場。
– 現在はワークショップが多数多様にあるが、「セルフ・コーチング」の意味は、参加者が自主的にプログラムを進行するという事態を促し、集団・グループが内部で自己生成していく場・仕組み自体を提供することにあるのではないか。
─
2. 身体/意識をどう対象化するか?
– ある身体の知覚の状態を、観察し意識化する(身体と出会う)ことで、反復可能な技術を修練する。
– 自らの身体を対象として観察する行為が、内省である限り逃れ難い主観性を、どのように客観的に実体化するか。
– 誰もが共有しうる外的な基準により身体を対象化する方法や、それと反対に、自分の位置から見た方向などの主観的で内的な基準を設定して対象を知覚する方法などが見られた。
– 一方で、「見られる」という状況の体験によって身体を意識し、その体験を俯瞰することで、身体/意識の関係を探る方法も見られた。
─
3. 振付の出発点について
– 意識的に何かをするのではなく、生きている身体が「してしまっている」という状況、生命理論(オートポイエーシス)への関心。
– 身体を基点にするのではなく、身体感覚に還元されない言語上の差異から出発し、身体の認識へ折り返す方法が見られた。
─
4. 即興の位置づけをめぐって
– 身体技術に規定されたパターンを逃れるための即興(脱自性の契機)の導入。
– 即興をするに当たっても動きのパターン化が起こる。そこから逃れるために外的な条件を敢えて課す「タスク」のような方法がある。
– 「わたし」を超える(脱自)方法としての即興。ただし「わたし」はあらかじめあるわけではなく、即興の過程で見出されるものであり、意識と無意識もまた、表層と深層というようにそれぞれの領域が定まってあるのではなく、フォーカスによって推移する表裏一体のものとして現れるのではないか。
─
5. 動きを媒介するイメージ、翻訳について
– 「言葉⇔動き」や、「オブジェ⇔動き」などの置き換え=翻訳の操作が、複数演習に共通して見られた。
– 言葉やオブジェから動きを引き出す過程を、言葉やオブジェを楽譜(ノーテーション)として動きに翻案するプロセスと見なせば、ノーテーションを使うことによって、動きそのものではないような、「動き」の素(もと)を再現することができる?
– 複数の事物に備わっている「ニュアンス」のような微細な感覚、個々の差異を観察し描き分けようとしても、身体の技術に表現が規定されることや、身体で表すことによる限定から、アウトプットが似通ってしまう困難が生じることがある。
– イメージには、個々の動きを束ね一つの方向性を与える働きがある。置き換え=翻訳の操作の際にも、イメージは次元が異なるもの同士をつなぐ媒介として機能する。(この全体をあらかじめ統制してしまうイメージの力から逃れる方法として、例えば、ヴィム・ヴァンデケイブスやヤン・ファーブルは、反射神経で動かざるを得ない状況をつくったり、疲労により同じことをできない身体状況をつくり出す試みを行っている)
– 振付の方法論には、身体技術や習慣に負うところをいかに変質させるかという課題があるが、そのためには概念的な探求と身体技術的な探求の両方が必要。
─
6. ダンスが観客、社会に対して意図するもの
– 「観ること」と「ダンスの実践」の境界が明確に分けられないような場合がある。
– 身体言語によって保存されるものがある。それが確保される場がダンス?
– 他者を察する能力、相対化する能力を培う。
– 身体というベーシックな機構を用いることで、その改編を通して、既存の社会に対する別の枠組みや基準をつくる可能性の探求。
[2011.10.29]