Whenever Wherever Festival 2021

後藤ゆう|透過through

後藤ゆう
《透過through》

ひとり。大通りの向こう側へ、わざわざ渡ってみる。歩道橋から見下ろして。路地裏には、雰囲気の良いランチを楽しむ人々。すぐ大通りに戻って向こう側へ渡る。横断歩道の端っこに、色鮮やかなアゲハ蝶が羽をひろげて落ちている。思わず拾い上げる。土気のある場所を探して、しばし行ったり来たり。風が強いので、羽がちぎれないか心配になり手元を見る。思いのほかしっかりとした重たさがあることに気がつき、驚く。羽もそう簡単にちぎれそうもなく、柔らかくて強い。あなたが軽やかに飛んでいたこと、確かに命があったことを、指先から受け取る。と同時に、道ゆく人々の目が異常に気になるわたし。植え込みを発見。左手で写真を撮り、そっと土の上に置く。スマホで羽の模様を拡大したら、宇宙柄だった。指先に残った鱗粉と、青山の遥か上空宇宙空間がつながる。約束していたかほにLINE。ゆうちゃん青い服着てる?振り返るとそれらしき姿。手を振る。わたしから送られてきた写真の、蝶の背後のブロック柄が、自分の足元と同じだったそう。同じ道を歩いてきたわたしたち。

さっそく小一時間茶をしばく。話は尽きないけれど出発。スパイラルちら見。「まえに歩いた道を歩いてみよう」と試みるも、迷い込む。少し昔の香り漂うのマンション前で、おばちゃんが週2日営むトラックの八百屋に遭遇。かほは何か買いたいみたい。わたしも釣られて何か買いたい気もするけれど、うちにはいま、野菜も果物も十分にあるので我慢。アボカドがごろっと大きい。かほはみかんの袋を買って、わたしにひとつ分けてくれた。

しかしどうもこんな道は歩いていないはずだ。道を少し戻って、ここかも!という道を入る。陰っているわりにすくすくとヒョロ長くマイペースに育った椰子の木。重厚感のある伊万里ビル。ここだ!ほどなくして、禿げかかった筆字の「行止」の文字。右手にはあのマンションの駐車場。ここだ!今日も2台分空いている。左側にはモンゴル大使館。マリモみたいな木の実がたくさん成っている。袋小路にある家々の前をうろつく。すると向こうでオレンジ色のポロシャツを着たおじいちゃんがわたしたちのことを気にかけているのに気がつく。「そこは通り抜けできないよ!」やっぱり声をかけてきた。ブロック塀に埋め込まれた、錆びきったドアがとても気になるが、おじいちゃんの元へ。「この辺はみんなスマホ持って迷うんじゃ。番地でなくて、建物の名前で覚えないとダメだよ。配達も郵便もみんな間違える。古くてスマホには載ってないんじゃ。」云々。手に持っているほうきを振りかざしてここらの地理を説明し出すおじいちゃん。顔の前で暴れるほうきを笑って避けながら、やわらかく受け答えするかほ。そしてどうやらこの人、わたしたちが前回小踊りした駐車場の、マンションの管理人さんらしい!リッチでリラックスした雰囲気のこのマンションには、立派な中庭があるんだそうだ。立派な人たちが住んでいるんだそうだ。近年の相場も具体的な数字で教えてくだすった。ニサンオク。そしてここの袋小路には、秘密の抜け道があるのである。「あの向かいの駐車場の突き当たりの階段を2段上がったら、表通りに出るよ」。ありがとうおじいちゃん。今度は中庭を案内してもらおう。コンクリの階段を2段上がる。ツーステップ。そしてまた別の駐車場が。土地利用に困ったらやっぱ駐車場だよね。

表通りに出た。最後に、なぜかはわからないが恐竜博士のオブジェのある広場で、佇む。恐竜博士に腰掛ける。よそよそしく、おどろおどろしく。いくつものショップのガラスに囲まれていて、わたしらもあなたらもお互い丸見え。なはずなのに、情報としてはすり抜け合っていて、干渉していないように感じる。恐竜博士とちょっと恋人ぶってみる。銅の本の傷をなぞる。本よ、わたしの掌が見えますか?かほは恐竜の卵の上で。とてつもなく大きな木が確かに呼吸し、わたしたちを見守ってくれていた。

Photo: Photo:Body Arts Laboratory

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