Whenever Wherever Festival 2021

宮脇有紀|まんまに歩む

宮脇有紀
《まんまに歩む》

上を眺めると、目新しい鳥籠に似た壁が迫ってくる。
下を眺めると、重心高く10cmヒールと革靴で歩いた足跡が連なる。
青い空を背景にいつからか太陽で編まれた緑の蔦。何かを見つけては伸びて絡まって、新しい柄を重ねる。
表情を歪ませるいくつもの顔が睨めっこ。
裏口のアイドルたちがそっぽ向ける。そんなこと気にしない。
問屋と質屋の間を抜けるとそこは、かかとを30度斜めにして並行になれる道。
かまぼこ板よりひと回り大きいブロックが両側の歩道に見立てた段差をつくる。
鈴の音で辿り着いた神社。苔がまとわりついた石達に一つずつ名前をつけた。すぐ隣の赤いワンポイントが魅力的な看板。特に名はない。
出入口がまるで迷路。全く手を出す箇所すら分からないお店の前で、デニムとTシャツにナイキのスニーカーの男性。名刺をラフに片手で渡す。
テラスではハンバーガーをナイフフォークで丁寧に食べる。
そばはつゆではなく、胡桃で食べる。
佇まいが美しい店構えで今日通る人も自然と「こんにちは」する。

色鮮やかなカラーコーンがサイドミラーに映る車。決して通行人とは並ばない。
鏡とガラスショーケースを上手に使って、昨日の自分よりも着飾ること。ヴィンテージ製も時代を跨ぐ。
音だけで紡がれる映画。猛暑で滝汗の後に芯から冷える。震える。リアルさ。
ギャラリーで心身整える。パステルカラーに染められて、手のひらから若葉が生えた気分。

どれだけ裏道を通って城にいけるか、城から駅に帰れるのか、探しに探した日々のこと。
華やかな城の3階から上に連れて行かれたらば、恐怖に駆られる。
小さな日本の国旗を持って整列して仮面を被ること。
肌の上から真っ白な肌を纏うこと。
顎を天井に突き上げて、鏡のブラックホールを撹乱させる。
手を胸の真ん中に縦に当てて、心をどこかに飛ばしている。
銭湯の蒸気になった気分で思い出すこと。
大きく息を吸って、何かに変わって。
大きく息を止めて、何かが聞こえて。
大きく息を刻んで、何かが被さって。
大きく息を吐いて、何かに許されて。
記憶の四季が浮き上がる。
山吹色した木の葉が「わしが一番やで」って準備にかかる。
キラリと輝く腰下の刃が年中てっぺんを狙う。器用な手先こそがトレンドの先をゆく。
少し胸を斜めに釣り上げた人達がとにかくかっこいい。それに同乗しないゴツゴツしたブロックが人の背筋を0.5m押してくれる。
寄り道しながら深呼吸。なるがままに背伸びしよ。

Photo: Photo:Body Arts Laboratory

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