Whenever Wherever Festival 2021

中林香波|この先、一方通行

中林香波
《この先、一方通行》

お気に入りの傘の先っちょと、お気に入りの小石を交互にけりながら地面を音を最小にして歩く。
水たまりに映る、いろんな方向からの色と音。それを歪めてマーブルにして、満足したから、前に進もう。

前の人はその前の高層ビルを隠してしまうくらい背が高い。背後に伸びる6メートルの影に追いつかないように気を配ってみていたら、私の眉毛と生え際の間くらいの高さの緑のトンネルに着いた。

そこには虹色の毛虫がいて、身体の数百、数千倍にもなる大きさの透明な葉っぱを食べて、あちこちに規則的な穴を開けていく。その数を目で追って数えていると永遠に時間が過ぎてしまった。毛虫はみるみる大きくなって、爆発したかと思うと、たんぽぽの綿毛のように飛んで行った。右の肘の外側に綿毛がかすかに触れて、心地いい。毛虫の一部が触れた右肘のしわから、砂と水を混ぜたようなものが入ってきて広がっていくと、身体がずっしり重くなった。

トンネルの入口の公衆電話から「今から帰るよ」と電話を掛けて、トンネルを進んだら、真っ白に包まれる。いつものように右にある階段を上ってただいまと叫ぶと、いろんな特定するのが難しい位置からおかえりと声がかかる。背骨と骨盤の間がゆるくなり、歩くのが難しい。丸いか四角い椅子に座って一休み。窓ガラスに映る自分はなんとも小さく見えるから、胸を張ってみたけど、あまり変わらないから丸まってていいや。膝を先頭に塩をかけられたなめくじのように縮こまる。

宝石のようにチョコレートが並んだショーケースに顔をうずめたくなる衝動は、いつまでたっても収まらない。例えば、一粒540万円のチョコレートはどんな味がするのだろう?一瞬で地球の反対側に移動できるような活力とエネルギーをくれるだろうか?そうでなければいらないかなと強がってみたけど、くるぶしはそれを嘘だと見抜いてくる。チョコレートを光るように睨みつけたら、チョコレートもショーケースも燃えてなくなった。そこにいたチョコレート客はなにもなかったように真っ黒こげを指さしながらスポーツ観戦をしているような活気でオークションをしていた。見ないふり。いなかったふり。

道には見渡す限りの鯉。アロハシャツ。裸足にピンクのスニーカー。真っ赤なメイクに真っ白な帽子。手首の皮が少し干からびてめくれてくる。
Do you really think you belong here?

Photo: Photo:Body Arts Laboratory

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