セノグラフィー・プロジェクト
鈴木健太+小駒豪

Whenever Wherever Festival 2023では、初の試みとして「セノグラフィー・プロジェクト」を実施。フェスティバルのメインイベント、SHIBAURA HOUSE(2月10日−12日)の空間デザインを「DIYできるアクセシビリティ」をテーマに募集し、審査を経て以下のチームの案に決定しました。

セノグラフィー:鈴木健太+小駒豪
プレイリーダー:鈴木健太、小駒豪、孟徳

今回のセノグラフィープランは様々な意味で仮設的なものです。プレイリーダーと呼ばれる我々セノグラフィースタッフを中心にこれを読んでいるあなたも会場で手に取れる木の板・チョーク・新聞紙などなど自由に使って空間に「DIY」、働きかけることが出来ます。自分の居場所をつくることも、痕跡を残すこともあたらしい時間のために壊す選択も、この場所は待っています。なにかあれば呼んでください。駆けつけます。


はじめに

WWFes(ウェンウェア・フェス)は、ダンスアーティストなど身体を起点としオルタナティブを志向するアーティストコレクティブが、フェスティバルの形式自体を実験的に問いながら運営しています。創作プロセスや先鋭性、エクスチェンジを重視したプログラムを特徴とし、アーティスト同士が結ぶネットワークとして機能しながら、その実験精神を交換するプラットフォームとして構想されています。

近年は、特に「場所」に注目し、〈らへん〉=アラウンドネス(場所を身体が横断するとき、知覚や記憶を伴って場所周辺に形成される固有の環境)をめぐってフェスティバルを開催してきました。同時に、舞台美術の範囲を越え、身体感覚や存在の仕方、関係のあり方に影響を与える空間、環境という意味での、より拡がりのあるセノグラフィーの可能性に着目してきました。

「WWFes2023〈ら線〉でそっとつないでみる」では、東京都港区の複数の地点における〈らへん〉をつないでみることを〈ら線〉として結びつけ、場所や地域からインスパイアされた感覚やストーリーを身体が旅しながら、 パフォーマンス、ワークショップ、リサーチプロジェクトが展開しています。そこから、広義には港区を今回のフェスティバルのセノグラフィーと捉えることもできるかもしれません。

その最終地点でメイン会場となるSHIBAURA HOUSEは、段差が車椅子の物理的なバリアになってしまったり、透明度が高い故に入りづらさを生んでしまうなどの空間的課題もあり、パフォーミングアーツを通して街に開かれた場を生み出すことを目指すWWFes2023では「DIYできるアクセシビリティ」をテーマに、SHIBAURA HOUSEの空間デザインのプランをセノグラフィー・プロジェクト(紹介制コンペティション)として公募することとなりました。

WWFes初の試みとなるセノグラフィー・プロジェクトに、3組のチームから提案を寄せて頂きました。どのプランも、テーマやSHIBAURA HOUSEの空間の特性に真撃に向き合うもので、そのアプローチの多様さに驚きました!コンセプト、デザインともにそれぞれ魅力的でしたが、フェスティバルのプログラムとの兼ね合いや実際の運営面などを考慮した結果、鈴木健太+小駒豪チームの提案を採択させて頂きました。

また、本サイトにて、各チームの提案と講評を公開いたします。プロジェクトへのご参加、刺激的なプラン、本当にありがとうございました。

セノグラフィー・プロジェクトチーム 
西村未奈/岩中可南子/林慶一


講評

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〈基準線〉でそっとつないでみる
青木廉/大山優/篠崎祐真/平澤美織

ガラス3面にわたって、人々にそっと寄り添うように設けられた線(基準線)が、空間に新しい表情や揺らぎを生み出してくれそう。SHIBAURA HOUSEのように天井が高く、ガラス壁でオープンな空間は、清々しくて気持ちいいけれど、自分がしっかりと立っていないといけないような気がして、心もとない。デザインにある赤いラインは空間映えし、インダストリアルな印象もある反面、そのコンセプトは木陰に座り込みたい、何かにそっと身体を預けたいなど、それぞれの想いにあった居場所づくりを、やわらかくサポートするそよ風みたいな優しさがあるなあと思いました。ビジュアル的にもラインがリボンのようで可愛らしい!また、難しい傾斜の部分も含め、線を設置するための構造がきちんと考えられていて、 安全に実行することが可能な現実的なプランとして想像することができました。引かれた線に観客が座ることもできるため、スペースが有効に使えるというところもダンスフェスティバルの空間案として実用的。移動式控え室のアイデアも、遊び心もありつつ、実際に更衣室や精算所としても使えそうで嬉しいポイントでした。
懸念点としては、多様なプログラムが展開され、観客と催し物の対峙の仕方が流動的に変わっていく中、空間のフレーム的なデザインが変化せず固定されてしまっていること、プログラムによってはこの線が、あまり活用されない時間も多く出てくるのではないか、また、大人数は線の上に座れないということで、観客の誘導の仕方など運営面から実用性・安全性の担保への不安があがりました。


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大貫友瑞/仲野耕介/笹田侑志(東京藝術大学)
視認性が高い空間に猥雑さを作り出すこと、均質になりがちな空間を2つのドアを結んだ線で緩やかに区分することで、多様な立場の人がそのままの在り方で共存できる場所を提起する案で、アクセシビリティにたいする明快な回答として力強さを感じました。ドアを開放し、外の2つの歩道をぐいっと中に呼び込むように結ばれるラインには、矢印のような引力があり、ビジュアル的にもエネルギーがあって、SHIBAURA HOUSEに常設であったらいいのに、という声もチーム内であがりました。もともと空間にあるオブジェクトを互いに結ぶことで新しいアフォーダンスを生み出していくコンセプトは流動的なフェスティバルのプログラム構成とも連動可能で、また、実際にプログラムの内容を想定してパターン違いの座席組みプランも含まれていたので、具体的に様々な展開を想像することができました。コーナーに設けられた備品スペース兼角打ちスペースは、物に紛れ、より姿勢を崩して談話できる隠れ家のような空間になっていて、すごく魅力的なアイデアでした!外に角打ちがはみ出して、屋内と路上空間を、自然に繋いでいく感じも海外の路上バーやアートフェスティバルのサロン的な雰囲気があって、かっこいい。
座席組みやオブジェクト配置を変える運営スタッフがいないこと、コロナ対策の観点からアルコール販売が難しいかもしれないこと、2つの歩道の色が違うため屋内で結ぶ線がどこまで歩道の延長として再現できるか、ドアの常時開放が難しく、クローズした時に、ラインが床に描かれた模様のようになってしまうのではないか、など、運営面との兼ね合いからどこまでコンセプトを体現できるかの懸念点があがりました。


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鈴木健太+小駒豪
観客も参加アーティストも、気の向くままに好きなタイミングで会場の景色を変えたり痕跡を残したり壊したりできる自由度の高さが魅力。個々人が自分の意志でその場所に関わりたい、また関わってもいいんだと感じてもらえるよう、能動性をプレッシャーなく促すプランになっていて、お題にあった「DIY」、「アクセシビリティ」の両方への基本アプローチとして通底する理念を感じました。
駄菓子、光るブレスレット、フラッグ、 入口門の人感センサーなど、おもちゃ箱みたいにワクワクするアイデアが散りばめられていて、そのどれもが、ただ楽しいウェルカムグッズというだけでなく、来場者の五感を刺激するもので、WWFes2023に来場したことがより記憶に残る体験になりそう。常時、ワークインプログレスで、どうなるかわからない未知なる感じ、プランの余白、ちょっとした緩さも含めて、少しの不安はありつつも、臨機応変に動いていくこのフェスティバルの特性と相性がいいように感じました。フェス期間中、プレイリーダーと呼ばれる、遊びガイド?ヘルプのお兄さん?的な人が常駐するアイデアも楽しくて、空間デザインというより、人のこうしたい!という衝動や、場所での新しい遊び方を誘発するようなセノグラフィのありかたが面白いです!


Whenever Wherever Festival 2023 〈ら線〉でそっとつないでみる
セノグラフィー・プロジェクト|募集要項

ダンス/パフォーマンス・フェスティバル「Whenever Wherever Festival 2023 〈ら線〉でそっとつないでみる」は、東京都港区にすでにある場所の歴史や生活文化のリサーチから出発した3つのプロジェクトで構成され、2023年1月から2月にかけて発表や公開イベントを行います。その1つ、 SHIBAURA HOUSEで2月10日から12日にかけて行われるフェスティバルのメインイベントの空間デザインを「DIYできるアクセシビリティ」をテーマに募集します。ふらっと気軽に立ちよれるような心理的アクセシビリティも考慮に入れた、低予算でDIYできる空間デザインのアイデアをお寄せください!

募集要件
・設置会場:SHIBAURA HOUSE(東京都港区芝浦3-15-4 1F)
・予算:必要経費全て込みで10万円(税込)。
・実施日程:2023年2月10日(金)−12日(日)
・仕込み:2月10日(金)9:00−14:00頃(数時間延長可能)
・バラシ:2月12日(日)19:30−21:00完全撤収

背景
都市には、床面の段差が車椅子にとっての物理的なバリアになっていたり、公共空間がいつの間にか一部の人にとって入りづらくなってしまっているなど、様々なバリアがいたるところに隠れてい ます。場を開くことには権利と義務の関係など、常に様々な問いがつきまといますが、物理的・心理的障壁をつくらずに場を開くアイデアを蓄え、試していくことは、都市を豊かにするツールになるのではないでしょうか。パフォーミングアーツを通して街に開かれた場を生み出すことを目指すWWFesでは、「DIYできるアクセシビリティ」をテーマにした空間デザインのプランを公募にって募集します。

条件・内容
・車椅子に対応する取り外し可能なスロープをデザインに組み込み、発案者が持ち込む(既存のスロープ購入でも可)。
・スロープ設置場所は参考資料「図面」右手のドア。ドア内側に受付が設置されます。
・壁のビス打ち、塗装は不可。壁や床にマスキングテープなど粘着が強くなく剥がせるものを貼る、窓ガラスに水性塗料で描くなどは可(バラシ時間内で現状復帰できる範囲)。複数のダンス やトークプログラムで流動的に空間を使うため、床面に障壁になるオブジェの設置はなるべく避ける。設置する場合は、移動できるものに限る。
・基本、「図面」グレーのエリアの範囲のデザイン。外に少しはみ出すなどは応相談。
・仕込みバラシ時間に設置・撤収できること。必要に応じて、数人の現場スタッフが手伝い可。
・使用素材の会場での廃棄は不可。持ち帰りをお願いします。
・駐車場は近くのコインパークを利用。搬出入時の荷下ろし時のみ建物前停車可。


Photo: 坂藤加菜

鈴木健太Kenta Suzuki
1993年生。2015年武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒。美学校実作講座「演劇 似て非なるもの」第2期修了。グラフィックデザインと障害者のヘルパーを主な生活の糧にしてます。その他の制作に舞台作品の劇作・出演、音楽の作曲・演奏など。バンド山二つにて主にギター・ボーカル担当。

photo: harumi kobayashi

小駒豪Go Ogoma
1983年東京生まれ。武蔵野美術大学卒業後、飴屋法水、生西康典の現場に、主にスタッフとして関わる。近年は、舞台美術/照明、美術展の会場美術、店舗内装などをDIYで製作している。参加現場は演劇:「武本拓也」「情熱のフラミンゴ」、店舗:「ツバメスタジオ」、美術展:「FANTANIMA!2022」など。

孟徳Motoku
2001年生まれ。お絵描きマスター。
好きなものは青、お絵描き、音楽、おばあちゃん。
WWFes2023のセノグラフィー・プロジェクトではプレイリーダーを担当。

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