Whenever Wherever Festival 2012

アドベンチャー発表|The Ambien Piece+Walking Piece





アメリカの振付家トラジャル・ハレルが主導し、写真とパフォーマンスの領域で活動するベルギーのアーティスト、デイビッド・ベルグのアシストによる、4日間のリサーチ型ワークショップ「アドベンチャー」。ニューヨーク/ヨーロッパを拠点に、振付をコンセプチュアルに拡張するような先鋭的な作品・活動を展開するアーティストの思考を、日本のアーティストと共有する機会として、BALが初めてWWFesでプログラムしました。

ハレルの作品《The Ambien Piece(睡眠薬の作品)》を最終的に受講者が再構築することを目指して、英語によるディベートを中心にアドベンチャーは進行しました。最終日、その発表として9名の受講者による《The Ambien Piece+Walking Piece》のパフォーマンスの後、講師・観客を交えたアフタートークが行なわれました。以下は、発表時に配布された、受講者による「アドベンチャー」の発表に至る記録です。


アドベンチャーの終わりに

私たちはトラジャルとデイビッドのもとでこの1週間いくつかの共有の体験をしました。

彼らとの出会いから始まった1日目、まずトラジャルの実践するコレオグラフがどのようにして成立してきたのかがダンスの歴史や思想的背景とともに語られました。そして彼が2006年に制作した《The Ambien Piece》の振付けについて、Masterが技術や知識を与えることでダンサーが習熟してゆくという通常の振付けの獲得方法ではなく、Masterはピルなのだ、という説明がなされました。コンセプチュアルダンスのいくつかの例示から「ダンスと振付の違いとは何か」「ダンスやパフォーマンスの新しい可能性とは?」などが投げかけられました。
写真家であるデイビッドは自らをプロフェッショナルな旅人として、渡り歩いたベッドの起き抜けの姿を記録するシリーズを、ベッドに写し取られた人型という写真的意味を含むと紹介しました。また、90分間続く写真作品とでもいうような、デイビッドの案内で数人が街を無言で歩く《Walking Piece》など、オブジェクトとしての写真ではない写真作品の可能性を提示しました。
この日、私たちは英語で提示された概念が意味するところをお互いに確認し合いながらも理解の曖昧さや困難さを残したまま、トラジャルの考える振付けというものの輪郭を見たように思います。

次の日、振付家でダンサーの余越保子さんが制作した映画《Hangman Takuzo》を余越さん自ら映画の背景などを語って頂きながら鑑賞し、その後実際に国立の庭劇場へ出向いて首くくり栲象さんの行為を鑑賞、栲象さんの行為に対する考えの一端を伺うという、ひとつらなりの貴重な体験をしました。

3日目はデイビッドが人々と街を歩く作品《Walking Piece》を実施することになり、私たちは雨上がりの光まぶしい森下をデイビッドの案内で無言で歩くという体験をしました。この体験は私たちそれぞれの心を動かし、作品の在り方の可能性について言葉ではない形で理解させたように思います。

アドベンチャーの終盤にむけて《The Ambien Piece》を実施するか/しないか、また、ピルを飲むか/飲まないか、などの話し合いの結果、ショーイングではトラジャルの《The Ambien Piece》に加えてデイビッドの《Walking Piece》についても私たちワークショップ生によって再提示してみようということになりました。ただ、今回この場で二つを再提示することで示されるコンセプトが具体的にどのようなものであるか、また、トラジャルが初日に示した振付やパフォーマンスといった概念の拡張にどれだけ応答しうるものかといったことまでは、私たちはショーングの前に十分な議論を交わすことができませんでした。

本日、私たちは観客の方々や用意されたこの場所の力をお借りして3日間の体験の続きにあたるショーイングを行ないます。アドベンチャーの終わりはどのようであるか、振付けやパフォーマンスの新しい可能性に少しでも触ることができるのか、最後までわかりませんがどうぞよろしくお願い致します。

2012年5月20日
アドベンチャー受講生一同


アドベンチャー発表
《The Ambien Piece+Walking Piece》
ワークショップ受講者による
講師:トラジャル・ハレル+デイビッド・ベルグ

2012年5月20日
森下スタジオ Sスタジオ

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Photo: Photo:Body Arts Laboratory

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