1-4-i|実演芸術家等の積極的な活用
2-2-iii|新国立劇場に求められる役割と取組
現在の日本の劇場の状況としては、劇場自体が国全体の芸術活性化に貢献するという意識は薄く、確実に成功する公演のプロデュースと、その集客に焦点が置かれがちな印象です。審議経過報告の5ページにも、「舞台芸術は実演芸術等のみで成り立っているのではなく、文化の創り手と受け手をつなぐアートマネジメントの役割が必要不可欠である」とありましたが、本来、文化の創り手と受け手をつなぐことは、劇場もしくは、舞台芸術振興団体の役割であると考えます。
残念ながら、現在日本には、そのような役割を担える舞台芸術振興団体は、皆無に等しい状況です。それによって、ダンスに限って言えば、個人運営の制作事務所や、各ダンスカンパニーのマネジメントの方への依存の度合いが、必要以上に大きくなっています。特定のダンスカンパニーのマネジメントを行う者が、同時に、日本で行われるフェスティバルのディレクターをしたり、海外のフェスティバルへ日本のアーティストを送りだす窓口が、個人の制作事務所になっていたりと、システムとして全く確立していないのが現状です。そして、これらのアートマネジメントに関わる人々の多くは、アートマネジメントの教育を受けたわけでも、ダンスに携わった経験や知識があるわけでもないのです。過去に、実際、少なくない数の方が、アートマネジメントにおける在外研修を経験されてきたことと思いますが、そのような方々が、何を海外で学び、どのようなかたちで、日本で力を発揮されているのか、リサーチする必要があるように思います。
こうした現状を踏まえ、アートマネジメントにおいて現実に必要とされている能力の見極めと同時に、新しい舞台芸術振興団体の設立と、それに対する支援、また各劇場のアートマネジメントに対する、より積極的な関与の必要性が挙げられます。
また、この審議経過報告において、政策部会が舞台芸術の拠点として推進しようとしている新国立劇場については、プログラムの単一性・柔軟性のなさ、贅沢な運営方針(スタッフの多さ、多額の制作費、振付家への報酬の多さ、等)、そして、公演数の少なさなどの不満や問題点が、アーティストサイドからは多数寄せられており、現段階では、劇場としてのポリシーが不透明かつ、時代性に欠ける印象です。新国立劇場の運営方針については、アーティスト(実演芸術家)を含む、より多くの方の意見を取り入れつつ、積極的に改革されていくことが望まれます。
一方で、バレエやオペラ、演劇のように既に確立されている舞台芸術ジャンルではなく、より先鋭的で多様性のあるコンテンポラリーダンスにとって、理想的な劇場が数少ないのは、大変、残念な現状です。
コンテンポラリーダンスにおける理想の劇場は、それほど観客の収容数が多くなく、多数のアーティストやカンパニーにより公演が頻繁に行われ、また、一般市民が参加できるプログラムや、無料で一般の方が鑑賞できるプログラムを企画するなど、柔軟性と社会性とをあわせ持つ多方向に開かれた劇場です。もし、そのような劇場の設立が実現し得たら、相当数のアーティストが将来へと希望をつなぐことになり、ダンス界自体が活性化することでしょう。また、一般社会にも、コンテンポラリーダンスが浸透することになり、新しい舞台芸術を鑑賞することにたいする興味と習慣が、日本の文化レベルの向上につながっていくのではないでしょうか。
山崎広太[2009.3]
Photo: Ryutaro Mishima