Body Arts Laboratory

調査研究会報告書案への意見|1

はじめに、「調査研究会報告書案への意見」を述べる前に、一つの提案をしたいと思います。
その前にパフォーミングアーツの現状に対して、何を急務に行なうべきであるのかを述べたいと思っています。この提案のために必要だからです。日本における、パフォーミングアーツ、または劇場の成り立ちを考えると、疑問を投げかけるざるをえません。私がニューヨークに住み始めて10年近くなりますが、そこで感じたことは、1、2年の海外在外派遣などでは、その地でのアーツマネージメントのあり方を認識するには、短すぎるということです。少なくとも、4、5年の歳月をかけて実践してから認識できることです。
パフォーミングアーツ、劇場の成り立ちで一番重要なことは、地域における自然発生的なコミュニティのあり方のリサーチであり、また、欧米のシステムを実践によって認識することが必要不可欠です。それにより、その土壌に合った理想的なパフォーミングアーツ、劇場の考案ができあがるものと思っています。そして、劇場はそれぞれの特色を生かして、日本から世界へ通用するアーティストの上演ができることを目指します。
そこを怠り、いままでは、総合パフォーミングアーツセンターとしてのリンカーンセンターなどの劇場のケースをそのまま真似てしまったのではないかと疑問です。それで今回のPO、PDに方々に対して、厳格な審査になることを望みます。
欧米では、アーティストが簡単に公演することはできません。公演は劇場との契約によって成り立っています。そこには、劇場、オーガニゼーションの審査が入り、公演できるアーティストは、ほんの一握りです。日本は、アーティストに全てを依存している助成制度であり、創造活動以外のこともしなければなりません。欧米のシステムでは、アーティストは、インディビジュアリティがなければアーティスト活動はできず、それによって切磋琢磨され、少しずつトップレベルの舞台芸術創造に近づくのではないかと思います。少しでもこのようなシステムに近づくことを望みます。

そこで、今一番急務なことは、大小関係なく劇場同士のコミッティを作ることではないでしょうか? そうすることで、劇場それぞれが個性を成り立たせることが必要になります。そして、無意識的にも劇場がそれぞれのアーティストを育てることに結びつき、いい意味での相互的な競争関係が形成され、よい作品が生まれるような環境を促すことが想像されます。しかし、実践される可能性は少ないと思います。

以下のことは現実問題として可能性がないことは充分承知しております。しかし、現実的にもこの手段しかなのではないかと思っております。
私が代表を務めるボディ・アーツ・ラボラトリーのような、場所を持たないオーガニゼーションにとって、一つのフェスティバルへの総合の助成が採択されるのみの現状です。もっと多様な助成システムの在り方として、一つのプロダクションを、ボディ・アーツ・ラボラトリーとアーティストが同時に助成申請することが可能になることを望みます。現在、それぞれの劇場が、どのように運営しているのか知りませんが、もし経営面で公演ができない場合、このしたシステムによって少しでも公演数は増えるのではないかと予想するからです。
それが実現すれば、例えば、今回の東日本大震災に関連した新たなプロジェクトを企画した場合に、アーティストが独自で助成を申請することも可能ですが、劇場やオーガニゼーションが協力関係になることによって、そのプロジェクトが社会的にも波及します。

山崎広太[2011.6.8]


  • ※本稿は、日本芸術文化振興会「文化芸術活動への助成に係る新たな審査・評価等の仕組みの在り方について(報告書案)」への意見募集に対して提出した3通のメールのうちの1通である。

Photo: Ryutaro Mishima

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