Body Arts Laboratorycritique

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松本和幸

知覚過敏な観察者

作品が始まった瞬間から、自分でも気づいていなかった微細な触覚が次々に刺激され、早速、知覚過敏症状を味わう。この体験を、なめらかな文章にして伝える自信がないので、ノートに書き記した言葉の断片を、整理してみる。

ゼロ。垂直方向のパフォーマー3人。ビビッ、と、神経経由、な意識の電気信号。丁寧な受信。ゲップの連呼。腸が反応。湿り気のない、心地良いグロテスクな香り。少し怖くなる。でも目が離せない。過敏な方向に加速。空間にぽそっと吐かれる言葉は、個々の身体感覚にどこまでも根ざしつつ、記号化されたことによる共有性も、もちあわせていて、絶妙にアンバランスな空気が流れる。
一見カジュアルな風景にひそむ、過敏な意識が、内だけではなく外にも向かいだす。次第に、ぎすぎす感を強めるパフォーマー同士の関係の、さらに魅惑的でグロテスクな香りを楽しむ。たまに、デフォルメされる身体の部位と言葉の関係が奇妙で、その関係は、確立しては、微妙にずれ落ちる。たわいもない日常会話に潜む強迫観念のような磁場がドラマを掘り下げる。内側にひしゃげる足の甲、すかすか動くひじ、ひきつれるアゴをじっと見つめる。

テン。手塚さんが、ふっと現れた。何でもないことのようにも、大事件のようにも、感じられる。自然なのに不自然で、不自然なのに自然で。清らかなドラムがアドレナリンの流れを加速させる。ドキドキする。のどを太く開いた手塚さんの動きに、食道がしめつけられ、目がぱっと開く。周りを囲う3人のパフォーマーと触手でふれあっているかのような、独特な、コミュニケーション。儀式のような静謐な磁場なのに、体温は温かい。

テンからの逆行。時間の空虚さ。「胃の前面に縦の線がある」男性。さらなるゲップを連発する女性。淵に立っている感のある彼女。時間の経過とともに、場所にうまれた、ささやかな歪みが、より立体的な印象を4人に与える。4人を結ぶ複数の線が徐々に派生。再び、向かい合うイスの場面。ラインの張りが、びよ~ん、とほぐれる。ほぐれたものは、さらに大胆にほぐれ、重力による筋肉、身体の重さを感じる。神経に骨の重量が加わる。4人の間のフィジカルな交差で、空間に、高低が出現。スピードも付加される。均質ではない、細かな質のズレの連続が前後左右上下、全方向への意識となって充満する。
マイナステンでフィニッシュ。
観察者にまず必要なのは、探究心、と思う。身近な物に、顕微鏡を当て、スコープを絞って、さらに絞る。そこに広がる新しいミクロの世界は、慣れきった物にたいする自分の好奇心をさらに上昇させてくれる。表面の下に広がる未知なる世界を垣間みたことに対する、畏怖と興奮から鳥肌が立ったりもする。普段は眠っている探究心をむくむくと起き上がらせてくれる手塚さんの動きや作品は、こんなふうな観察者になれる希有な喜びを私たちに与えてくれると思う。

[にしむら・みな|振付家・ダンサー]


《私的解剖実験-5 関わりの捏造》

振付:手塚夏子
出演:篠原健、小口美緒、若林里枝、手塚夏子

2010年6月25日-28日
こまばアゴラ劇場


協力:手塚夏子協働組合、手塚夏子