Body Arts Laboratorycritique

《詩人の聲》
2012年9月6日
Star Poets Gallery

大崎清夏さんのこと

大崎清夏さんは、詩人です。
詩人であるのですが、私個人にとっては、友人でもあります。
大崎さんと私との出会いは、2005年頃、共通の友人からの紹介でした。
私たちは沢山の話しをしたり、散歩したり、刺激をうけた本や音楽や舞台の情報を交換したり、詩とダンスのパフォーマンスを一緒に企ててみたり、同じ舞台に立つ機会があったり。
それなりの交流を積み重ね、私は大崎さんのことを(自分なりに)知っているような気がしているのだけれど、大崎さんの書いた詩や、詩の朗読の場に立ち会うと、その言葉を紡ぎ出した人、声を発しているその人やその声が、知らない人、知らないものに思えてくるのです。

大崎さんの詩は、とびきり驚くような斬新な言い回しや表現方法とかは出てこなくて、割と淡々と親しみやすい文体で綴られています。(それは、普段の人柄とも通じています。)
動物が沢山出てきます。植物も出てきます。人も勿論出てきて、山をくだったり、窓のことばかり考えていたり、静かに怒っていたり、折り紙を折り続けたりします。
人が何かをするのと同じように、光が差し込んでいたりします。
大崎さんの詩の中では、熊も、地面も、窓も、窓を拭く手も、うんちも、川も、神様も、男も女も、一万年前も、動物園も、光も、これから起こりそうな出来事や、誰かが思い出している出来事も、何かが特別になることがなく、みんな横並びの同列に並んで、独特のリズムを生み出しているような印象を受けます。

そして、言葉の連なるリズムの中には「大崎清夏」という存在感が、見当たらない感じがするのです。

私は、大崎さんの詩を前にした時、大崎さんを知っているつもりの私が、私の知らない大崎さんの何かに触れたような気がしたけれど、そうではなくて、そもそも大崎さんの詩の中に、大崎さん本人が「いない」のかもしれないと思いました。

詩の中で起こっていることを「みている」、言葉の連なりから生まれるリズムを「きいている」。大崎さんの詩は、大崎さんの紡いだものだけれど、発する側には存在せずに、受け取る側に存在しているようにも思えたのでした。

この夏、大崎さんの朗読会に行きました。
広尾の小さなギャラリーでその会は行なわれました。
大崎さんが自作の詩を朗読する時、その声は普段会話する時のトーンや、雰囲気とほとんど変わりなく感じます。
でも、やっぱり、普段の話し方、話し声と似ているようで違います。

違いの具体的な理由のひとつは速度だと思います。
普段自然に話している時より、ほんの少しだけゆっくりとした速度が保たれたまま進んで行きます。大きな乱れや抑揚は無く、低くじんわり響く声で、淡々と続いて行きます。
聞いているうちに、紙に書かれた文字の連なりを連想させました。
文字が声になって、形を変えないように気をつけながら、口から空気に送り出されているような印象です。

もうひとつ特徴的だなと感じたのは、文節で置かれる「間」みたいなものが微妙に長いことです。ひと呼吸置く、というにはほんの少し不自然に感じるような長さです。聞いている側は、知らず知らずのうちに、黙っている時間、空白の時間に身を預けるような、味わっているような感覚になっていました。
重なって行く朗読の時間の中で、じわじわと、ささやかな気持ちの波立ちが、小さなギャラリー空間の中でゆるやかに共有されているようでした。

気持ちの波立ちに、読む声が揺さぶられることはなく、ただ淡々点々と、声と空白の連なるリズムが空気に置かれていき、体に届きます。

そのリズムは、静かなのにくっきりとしていて、雪の上や砂の上に点々と続く足跡(大崎さんの詩に出てきていました)にも似ている気がしました。

動物たち、かつての女の子たち、道に落ちていたかけら、降り続く雨、詩の中で使われる言葉のモチーフや連なりも、詩を声に出して朗読する声のトーンも、生活する場や時間の延長線上にすんなり繋がるような、素朴なもの、単調だったり冷静だったりするもので、一見すると、特別さや激しさは感じられません。
でも、素朴に見えるもの、単調に見えるものの中に様々な感触や気配の濃淡、静かに攻撃してくるような鋭さ強さが含まれていることが、積み重ねる言葉と声の中で示されているように感じました。

その示し方は、素朴なようでとてもしたたかで、大崎さんの詩に出てくる動物たちとも繋がっている気がします。

動物たちは、素朴な顔をして、じっとみていたりきいていたり、身を潜めたり、足跡や匂いを残したり、そっと近づいてきたりします。
居心地のいい場所や、自分に合った攻撃の仕方、手に入れることのできる欲しいものを知っている気がします。

その在り方は、静かにワイルドです。

[ふくとめ・まり|ダンサー/ほうほう堂


会場を外から
眺める

プロジェクト La Voix des Poètes(詩人の聲)第792回
《適切な速度で進む船》

詩・声:大崎清夏

2012年7月24日
ギャラリー華