Body Arts Laboratoryinterview

ダンスと時間

松本力×佐々木文美
《he meets no time
capsule ひ みつ の
たいむかぷせる》
(キュレーター:福留麻里)
WWFes 2018より

福留 ちょっとまた話が変わるんですけど、さっきAokidくんの「Try Dance Meeting」の場でも話題になっていたんですが、「ダンス」と呼んでいるものをどういう風に別の言葉で言うか、というか、「ダンス」と呼んでいるものの中身をどう考えているのかというか。

印牧 やや大きすぎるかもしれないです。逆に福留さんはどうですか? 福留さんの活動にもいろいろありますよね。自分の作品を作ったり、客演したり、ほうほう堂もあったり、一方、今回フェスティバルの関係者にインタビューしたりと。

福留 私は結構、「動き」そのものが好きで。今このフェスの期間は、自分が運営サイドとしていることでお節介モードみたいになっていて、踊るってことと、少し距離ができちゃってるんですけど。自分は日常と地続きのところにダンスがあるっていうことをずっと思ってやってるし、大きい動きも、取るに足らないように思えるささやかな動きもダンスになり得るというようなことを、信じてやってるけど、それでもやっぱり自分なりの踊る回路っていうのはあって、今みたいな状態の延長線上ですぐに切り替えられる感じがしないなーと今(このフェス期間中)は思いますね。でも、こういうモードだからできる動き、ダンスっていうのもあるかもしれないですよね。
どういうところにダンスがあるのかっていうことを、「ダンス」って言葉で言っちゃいますね。他の言葉で言うのが難しいなと思います。その動きでしかうまれない「感情」と言っていいのかわからないけど、感情の中でも「嬉しい」「悲しい」というような大きなものに入らないものがあって、ダンスでしか触れられない感情や感覚、認識やビジョンのようなものがあると思っていて、そういうものを拾いたいなと思います。

印牧 今回のWWFesで福留さんがキュレーションしたメインの企画《he meets no time capsule ひ みつ の たいむかぷせる》は、いわゆるダンスではなく造形作品で、その中で過ごす時間も含まれています[*1]。それとダンスとの関わりはどういうものだったのでしょうか?

福留 まだ言語化しきれていないんですけど、そのことでしか起こらない身体の状態というか。「時間」のことを考えたいっていうのが、この企画ではまずあって。ダンスは、時間の性質が変わるというか、急にゆっくりになったり、一瞬って思うものの中にたくさんのことがあったり、そういう経験が、踊ったり、踊りを見たりする中で何回かあって、そこに魅了されてるところもあるから、ざっくりしているけど、「時間」て呼んでいるものってなんだろうっていうことが一つにはあって。
もう一つは、「アーカイブ」的なことというか。ダンスはその場に立ち会うっていうのが一番の醍醐味ではあるんだけれど、ダンスにおいての「残る」ってことについて考えたいというか。自分も例えば、過去の、映像を見てシンパシーを感じたり、過去の人が行なったことに触発されたり励まされたりということがあるんですけど、ダンスにおいて「残る」とか「残される」っていうことを、映像とか文章以外でできないかな、というか、新しい「タイムカプセル」の発明を試みよう。みたいな感じです(笑)。

印牧 そのコンセプトメイキングは3人でしたのですか?

福留 「タイムカプセル」っていうお題じたいは、私ですけど、実際の中身や具体的なコンセプトにしていったのは、佐々木文美さんと、松本力さんがたくさん話し合って作ってくれたものですね。私はたまに話し合いに参加するという感じですね。ってなんか相互インタビューみたいになってきましたね(笑)。
私はダンスに最初に興味を持ったきっかけは演劇だったりしたから、言葉と身体の関係とか、舞台の上での時間の質が変わることとか、そういうことが興味の出発点にありつつ、日常の延長上というか、日常とどう結びつくか、っていうのはいつもテーマとしてある感じですね。ただ、劇場でやるときと屋外でやるときなど、状況によって割とわけて考えてますね。でも、この辺は今度もっとじっくりインタビューしてほしい(笑)!

印牧 《たいむかぷせる》が時間の質の変化の保存・再生装置みたいなものだとするならば、そこがダンスに触れている、ダンスで考えていることと深い部分で響いているということでしょうか。

福留 そうですね……ただ、自分としては、ダンスについてすごく考えた結果、こういうことになったけれど、ぱっと見はそう見えづらい、捉えづらいっていうのはあると思って。このフェスに参加する上で、もっとみんなに「ダンス」に興味を持ってもらいたいっていう気持ちがあるからそれを反映できてるかは難しいなとは思いますね。
それで、ダンスっていうことでは、動くことそのものにおいて、どこまでオリジナルなことが考えれるかというか、今まであったこととは違うというか、動き自体が独自の言葉になっているようなこと、動き言語みたいなことをやりたい、っていうのはずっと思っていて、最近は全然できてないからじっくり取り組んでみたいですね。

印牧 《たいむかぷせる》を体験すると、空間が複雑なものに感じられて、そこがダンス的だと思いましたね。それから、自分が動くことで等身大の絵巻物が展開されるみたいなところが映像的でもありました。

福留 力さんと文美ちゃんは、何か一つの物事に対して、独特で膨大な情報量があって、それは、二人は全くそんなこと思ってないだろうけど、ダンス的だなと思ったりします。例えば、「シュッ」っていう一つの動きの中に色々なことが含まれる、っていうのと私の中では結びついて。


松本力×佐々木文美
《he meets no time
capsule ひ みつ の
たいむかぷせる》
(キュレーター:福留麻里)
WWFes 2018より

WWFes 2018の空間デザインと同時多発

福留 今後のWWFesのビジョンとかは何かありますか?

印牧 今回のキュレーターが次のフェスティバルのキュレーターを推薦してもいいのかなとも思います。最後に、WWFes 2018の空間設計と同時多発のコンセプトはどちらが先だったんですか? 今回のフェスティバルでは、作品や活動が発生する場の「自治」がテーマになっています。空間デザインによって6つのブースに区画が分けられたそれぞれのエリアで出来事が同時進行するなか、何らかの干渉が生じざるをえない状況で、どう共存、自治していけるか。テーマと空間構成が組み合わさっていますよね。


WWFes 2018
会場風景
写真上 右奥:
楠美奈生ワークショップ
(キュレーター:福留麻里)

福留 同時多発のコンセプトについては、結構前から出ていて、いろいろな劇場でやるっていうレベルでのアイデアも途中あったりもしました。今回の「しきる」という具体的なアイデアは、村社(祐太朗)さんが何かの会議の時に言っていて、その方法なら、それぞれの内容が独立しながら、同じ空間での同時多発として実現できそうかも!となって、そこからスムーズに決定していった感じがあります。そこから実際にどう「しきる」かの具体的なことは木内さん山川さんたちが作っていきました。例えば、カラーコーンを置くだけなのかとか、何か布を吊るすのかとかいろいろなアイデアが錯綜した先で、今回のシンプルな形に、木内さんと山川さんがしてくれたという感じでしたね。
村社さんは、自分の作品でも「しきる」ってことをやりたいと思っていたって言ってました。実際、新聞家のSTスポットでの作品《建舞》(2018)でやってましたね。この空間がほぼ今回のフェスの性質をかなり左右して決定づけてますよね。最終的に、建築チームがたどり着いたこの形式は、かなり巧妙に観客のことが考えられているところがすごいな、と私は思っていて。お客さんがどうしていいかわからない度合いが高すぎると、その時点でもう距離ができてしまうけれど、これは、わからないくらい絶妙に、けどかなりはっきり誘導されているから、それがこの場が混沌としながらも、ギリギリ成立している条件としてすごく大きい気がする。

印牧 かつそれぞれの区画の枠が額縁のように別の区画をフレーミングする借景みたいになっているので、そこでも一つ距離ができているかなと思います。

福留 それは本当に大きいと思います。でもキュレーターの人が次のキュレーターを紹介っていうのはいいですね。ありがとうございました!

[2018.4/北千住BUoYにて]

「ダンス警察桜井圭介の
これがダンスだ!」
(キュレーター:福留麻里)
WWFes 2018より

「クロージング・パーティー」
WWFes 2018より
VOQ+松本力
photo:
Shinichiro Ishihara


付記

WWFesは、このインタビューが公開される2020年時点で、アーツカウンシル東京の助成を得て、2019−2021年の3年間のプロジェクトとして8名のコレクティブにより運営されている。メンバーは、WWFes 2018キュレーターの福留、Aokid、村社、七里と空間デザインを担当した木内、山川に、山崎広太とBAL運営メンバーの西村未奈が加わり、2019年、空間や時間を仕切ることを起点にした3回のイベント「しきりベント!」の開催を経て、2020年は、WWFes 2021に向けたリサーチが展開されている。リサーチテーマはメンバーごとに設定され、noteの有料マガジン(購読料:1000円[年間価格])にリサーチの予告(参加方法)と記録が掲載されるため、購読者はリサーチに加わることもできる。


印牧雅子Masako Immaki
編集者。分野は主に身体芸術。2013年まで四谷アート・ステュディウム研究員。編集書に『Wake up. Black. Bear. 橋本聡』『けのび演出集 1 しかしグッズ』など。眞島竜男・外島貴幸小説集『bid』をデザイン。ダンスフェスティバルWWFesにプログラム・コーディネーターとして2009年より携わる。

福留麻里Mari Fukutome
1979年東京都生まれ。2001年より新鋪美佳と共に身長155cmダンスデュオほうほう堂として活動。独自のダンスの更新を試みる。2014年より個人活動開始。以来、劇場での作品発表、川原、公園、美術館、道など、様々な場所でのパフォーマンスやワークショップ、他分野の作家との共同制作などを継続的に行ない、いくつもの関係性とそのやりとりから生まれる感触や結びつきや考えや動きを見つめ、紡いでいる。2019年BONUS(木村覚)との共同企画「ひみつのからだレシピ」を始動。2020年セゾン・フェローI。
https://marifukutome.tumblr.com

  1. アニメーション作家の松本力と舞台美術家の佐々木文美による展示《he meets no time capsule ひ みつ の たいむかぷせる》は、WWFes 2018で発表された後、2018年5月5日から5月14日の期間、Gallery Hasu no hana(東京都品川区)で、展示を伴うサロンとして展開された。Back