Body Arts Laboratoryinterview

ダンス/パフォーマンス・フェスティバル「Whenever Wherever Festival 2023 〈ら線〉でそっとつないでみる」は、東京都港区にすでにある場所の歴史や生活文化のリサーチから出発した三つのプロジェクトで構成され、2023年1月から2月にかけて発表や公開イベントを行います。その一つ「ダンスアラウンド」の一環として、盆踊りリサーチ企画「盆踊りアラウンドネス」が進行しています。盆踊りを実際に習いに行ったり、有識者の方にお話を聞いたり、独自の盆踊り(のようなもの)を制作しようと試みたり。「盆踊りアラウンドネス」の発表は、2月11日〜12日、田町・SHIBAURA HOUSEで行う予定です。

そのきっかけとなったのが、WWFes運営メンバーも複数名関わっていた「放課後ダイバーシティ・ダンス」(以下、ADD=After-school Diversity Dance[*1])。その中の、港区プロジェクトを通じて、今回の企画でも盆踊りの選曲や、トークゲストとしてご参加いただく、北島由記子先生に出会うことができました! 北島先生は、「人と地域を元気にする盆踊り実行委員会」代表でもあり、とにかく、エネルギーに満ち溢れた方です!

港区でこっそりと盆踊りを練習する会(=コソ練部)について、ダンサー・振付家の福留麻里さんが、2019年6月にADD港区プロジェクトのリサーチとして北島先生にお聞きした時のインタビューを公開させていただけることになりました。福留さんは、はじめて練習会に参加して、老若男女たくさんの色々な人たちが、ひたすら盆踊りをほぼノンストップで踊っている様子に衝撃を受け、北島先生にインタビューを敢行したとのこと!

「盆踊りアラウンドネス」でも、北島先生には、ミニ盆踊りの選曲や、2月11日のトークプログラム登壇、実験的に取り組む怪しい盆踊り(のようなもの)創りにご意見をうかがうなど、様々な形でアドバイスをいただいています。WWFes2023のnoteで、盆踊りリサーチの様子も公開していきますので、是非のぞいてみてください。[西村未奈|WWFes2023共同キュレーター]


ご当地盆踊りの発掘

福留 コソ練部、たくさんの盆踊り(約30曲)を3時間ひたすら踊ってびっくりしました。

北島 コソ練部は、盆踊りの練習会というよりも盆踊りを楽しむ仲間の集まりです。福留さんが参加したのは、その中でも第3水曜日の霞町町会の盆踊りの練習会。毎年夏に行われる霞町の盆踊り大会で踊る曲だけを集めて踊ってます。霞町の盆踊り大会でかかるのは、全部で約50曲。多分都内で一番かかる数が多い。歌謡曲もあれば、AKBの「365度の紙飛行機」もあれば、昔ながらの民謡「佐渡おけさ」とか難易度の高い曲もあります。

福留 そうですよね。佐渡おけさとかやっぱり感動して。難しくてさりげないけど、複雑で。

北島 そうなの、色々な曲があるから色々な人が集まる。そしてできれば盆踊り大会では踊りたいじゃない。人のを見ながらだけじゃなく。それで、毎月1回練習会をしてる。1年中やってるから。

福留 北島先生が、ご当地発掘盆踊りを始められた経緯はなんですか?

北島 きっかけはね、隣の六本木町会の「六本木音頭」と「六本木小唄」っていう踊りがあったの。私でもど真ん中じゃない、ちょっと上の世代の、それこそ美空ひばりなんかが盆踊り曲を歌っていた時代の。それを六本木町会の婦人部長さんがかたくなに守り続けてきていたのよ、盆踊り大会をして。ところが、三河台中学の廃校になったところで盆踊りをしていた場所に麻布警察が移ることになっちゃったのね。それでここではもうできませんよ、ってなった時に、たまたまその婦人部長さんがお引越しをすることになったの。
そうなると、音頭とる人、リーダーになる人、教えるひとがいなければ盆踊り大会って成り立たないの。だって炭坑節と東京音頭だけかけて誰がくる? それで、場所も取れないし、じゃあすっぱり盆踊り大会、やめましょうって、六本木町会がなったんだけど、その方から私が、この六本木音頭と六本木小唄は残したいのよ、って、相談されたのよ。それだったら、霞町にも、霞町音頭っていうのがあるから、これも音源にしたい、歌にしたいってなって、どうしたらいいかね、でも残したいよね、って言っていた時にちょうど港区の助成金を見つけたの。それで、少しでも区から出してもらえるんだったら、差額は自分たちで負担すればいいね、ということで、霞町音頭を作り、六本木音頭と六本木小唄のDVDとCDを作って残したのが最初。

福留 それは何年前くらいなんですか?

北島 2012年かな。

福留 じゃあ結構、最近なんですね!

北島 そうよ、それまではずっと盆踊りを好きに踊ってただけだから。

福留 そうなんですか!?

北島 そう。盆踊りっていうのは、ビクターとかクラウンが毎年新曲を出すんですよ。レコード会社は売らなきゃいけないじゃない? そうすると、去年の曲、一昨年の曲、10年前の曲はどんどん捨てられていくの。でもその中にはすごくいい歌がたくさんある。ましてや、もう誰も踊ってないし、歌ってないけど、よく歌詞をみると、港区の曲じゃんこれ。っていうようなご当地曲もあるの。そういうのをいろいろ聞いてると、これこのまま消えていくのはちょっと違うだろうっていう気持ちになって。じゃあ、調べればいっぱいあるんじゃないかと思うと、うじゃうじゃ出てくるわけ。えーこれ残したいよ!っていうことで、「人と地域を元気にする盆踊り実行委員会」っていうのができたの。
それで、たまたま私はずっと霞町の婦人部長をやっていて、霞町って、今と昔が本当に混在していて、人間性は下町なの、みんな昔から住んでるから。下町で隣の夕飯知ってるぞ、みたいなところもあるし、昔の古い人たちに、「昔ってどうだったの?」って聞いてみると、誰かは「そこにお地蔵さんあったよ」って言ったり、別の人からは「ないよ、このへんはね、江戸上屋敷だったからそこのまわりに大名さんの生活用品が必要だからって、商店ができたんだよ」っていうような話が出てきたり。そういうのを聞いてると楽しいけど、聞くだけでいいのかな?やっぱり残したいよな、と思って。

福留 それで、盆踊りを発掘したり、開催したりしているんですね。

北島 そう。そこで、人と人が出会っていったりもする。霞町の町内には、学校もないし、公園もないんです。だから、警察の許可を得て、通りで盆踊りを踊っていたら、近隣のマンションから太鼓の音がうるさいと苦情もきたりして、今は町内ではないけど、青山公園でやってるの。広い場所でやったらやったで色々な人がくるから、「あ、あんたどこかであったよね。あー六本木中学の防災訓練の時いたでしょう」みたいな話になったりもして。そうか、盆踊りって、踊りながら、「どうやるの?こうやるの?」って話をしたりもするし、そこで顔見知りになった人と、こういう場で会うんだ、って自分も実感している時に、全然関係ない芝公園の防災訓練で、盆踊りに来ていた赤ちゃんを抱っこしたお母さんに会ったの。「あれ?なんか葛飾とか言ってたよね」って言ったら、「盆踊りでこっちの雰囲気がよくて引っ越してきちゃいました」って言ってて「えーー!!盆踊りがとりもつ縁ってすごい」って思って。そういう繋がりって絶対に大事なので、盆踊りっていうのは、人と人を結びつけますよ、人と地域を結びつけますよ、っていうことで団体の名前がこれになったの。わかりやすいでしょ?長すぎるけど(笑)。

踊れなくてもいい

福留 でもたしかに、「コソ練部」ってご高齢の方もいらっしゃるし、会社帰り?みたいな若いご夫婦とか、OLさんもいらっしゃるし、本当に色々な方がいらっしゃるなと思って。

北島 そうなの。中学生も高校生もくるし。

福留 それで結構みんな本当に楽しくてやってるんだなっていう感じがして。

北島 そうなのよ、踊れなくてもいいのよ。踊りは上手とか下手とかそういうんじゃないの。

福留 そうおっしゃってましたよね。盆踊りって繰り返すし、視界に必ず誰かが入るから、気づいたら、あってるかわからないけど、流れについていくというか、渦に巻き込まれるような感覚があって、改めて盆踊りって面白いな、と思って。

北島 そうなの、踊りって良さはそれだよね。みんなを巻き込んじゃう。踊る人と見る人ってわけなくていいのよね。だから、芝公園でやるときも、車椅子で来てる人もいるし、どんどん入って!っていう感じなの。

福留 ちょっと自分側の話になっちゃうんですが、港区のワールドフェスティバルっていうのあるじゃないですか。

北島 私たちも大使館でしょっちゅう踊ってるよ。

福留 えーそのお話もあとで聞きたい……。そう、そのワールドフェスで、色々な国のダンスをやっていて、アフガニスタンのダンスとか、ウズベキスタンダンスとか、面白いな、と思うものがいくつかあったんです。そのお話を聞いていると、円になって誰かの真似をして踊るっていうのをアフガニスタンのダンスで言っていて、単純な動きを繰り返して円になって踊る、そういうのは、例えば、結婚式で踊ったり、生活に近いところでダンスをみんな踊っちゃうんだっていうのを言っていて。

北島 アフリカとかもそうよね。私サッカーが好きで日本代表の追っかけなんで、南アフリカのワールドカップに行って、ジンバブエとか周った時に、色々な種族の踊りを見せてもらって、地域によってみんな似ているようで違うんだけど、どこに行っても、言語の発達の代わりに表現しているっていう話があって、日本だって、雨乞いの踊りがあったわけじゃない?ああいう感じだよね。だから、おめでとうって表すときは、天を向くんだっていうようなことをアフリカの人も言ってたよ。

福留 そうですね。ただ国だけを見た時には遠く感じるけど、踊りっていう視点でみるとすごく共通してたりとか、それって面白いというか、可能性のあることだよな、ととても思って、そういう色々なことを、あの盆踊りの輪の中にいながら感じました。「ビューティフルサンデー」とか、両手を上げながら踊ったりとかしながら。

北島 笑っちゃうよね、お遊戯みたいで。

福留 あの曲は、3時間くらいある練習会のの後半あたりにくるじゃないですか。それで円の真ん中を向きながら、向こう側にいるご高齢の方が両手をあげながら踊っているのが見えたりすると、なんだか楽しくなってくるというか、いいなーと思ったりして。

  1. 放課後ダイバーシティ・ダンス(ADD)は、子供たちにダンス(舞踊)を通じて、文化多様性を体験してもらうプロジェクトとして、港区、国立市、日の出町の3地域で実施されました。公式サイト:https://addance.net/。なお、WWFes2021ではADD実行委員より武藤大祐さん、林慶一さん、佐藤美紀さんをお招きして「私的ダンス談義」と題してオンライントークを行いました。Back