笹本晃|3
Interviewer|西村未奈・山崎広太
performance still
from "Centripetal Run"
photo:
Chocolate Factory Theater
Courtesy of Artist
アーティストがキュレーションすること、教えること
MN―ムーブメント・リサーチのスプリング・フェス2010年[*1]でキュレーターをしたときのことをお聞きします。アーティストがキュレートすることの問題点・難しさや、逆に面白さとか、どうなんでしょうか? どんな経験でもいいですけど。
問題点ね。やっぱり客観的なビジョンみたいなものよりも、自分の欲望みたいになっちゃう。キュレーターにビジョンがあるかというと、そういう人はあまりいない。なかにはいるけど、自分の作家活動で意識していることが入っちゃうじゃない。アートはこうあるべきだとか、ダンサーはこうあるべきだみたいな。それは良いところでもあり、悪いところでもあると。
MN―経験としては面白かったですか?
私にとっては凄く良い機会だった。たまにビジュアルアート過多になったり、ダンス過多になったりしてバランス取りたかった時期だったから、いろんなダンスの人と話ができたのは。やっぱりキュレーターが4人いて、たまに会って皆で話し込むとダンス論議になるから、それは凄く良かったと思う。
MN―晃さんは美術館でもやったりするから、ダンスのキュレーターだけでなく美術のキュレーターとも話したりするだろうし、領域が違うところでバランスを取っていると思うんですが。そうしたところで自分なりの戦略、アプローチの向かう姿勢の違い、ネゴシエーションはあるんですか?
特に私は上手くないんだよ、そういうの。好きな人としか仕事できないから、どっちも敵の方が多いよね。敵じゃないけど、話せる人って数人で、そういう人達って結局、in betweenの人達だから。チョコレート・ファクトリーのディレクターも、かなりオープンだからさ。ダンスを結構広義で取っていて、気が合うからよくやっているけど。アート界のキュレーターとか特に仲良くないけど、数人なんかいいな~と思う人がいて、結構ダンスが好きだったり、元ダンサーだったりとかね(笑)。
KY―横浜トリエンナーレでも仕事されていますね。
コロンビアの大学院がNYだったし、結構現役業界人との交流が盛んだったから、キュレーターと会う機会が多かった。オープンで、早くからパフォーマンスやっている人とかいたしね。あんまり分けていないのよ。私は「ニュージャンル」で入ったんだけど、ペインターの人がビデオやろうが、プリントメーカーの人が彫刻作ろうが、何も言わないから。そこが私にとっては凄く良い学校だった。リベラルアーツの学部も自由だったけど、大学院もそういう敷居がなくて。
MN―日本では考えられないよね。
それは教授のヒエラルキーの問題なんじゃない? 最終的には、やはり個人だよね。システムを結構無視できるものは無視してきたと思う。今教えているところもコロンビアの大学院で、まったくジャンルの敷居がいらない。自分に一番近いと思う。だから写真の人もいるし、ペインターの人もいるし。
MN―ところで、いろいろな大学でゲスト講師として教えているときに、まずどんな生徒に教えることが多いのかと、どういうことを自分は伝えたいと思っていますか?
彫刻を大学の学部で何学期か教えていて、ゲストとしては彫刻、広域でのビジュアルアートの大学院によく呼ばれる。他にも友達伝いだとか、ダンスのクラスにゲストで行ったりしてて、それは自分で保ちたくて、数学の人のところに行ったこともあるし、結構リベラルアーツ寄りなんだよね。
MN―今、大学院ではプロジェクトを生徒と一緒に作ったり?
結構、自由かな? 公園に連れて行って踊ってみたり、皆に封筒を引かせて、一人一人全然違う次の予定が書いてあって、はい、頑張ってね~みたいな。自分が楽しむのが基本だよね。それでもね、私は教える資格ないな~、教えることもないな~と思っているから、もうエネルギーだけだよね。結局、その人がインスパイアリングかどうかだけの話で、その基盤があって初めて、実際問題、一生徒がやっているプロジェクトの問題点の解決策を一緒に考えることができるけど。あとプッシュだけだよね。ハードワーキングと、あとはどうやって自分を奮い立たせるか、モチベーション持っていくか、それしか私教えることないわ。
MN―やはり教えるのは基本的に好きですか?
う~ん、好きじゃないかもしれないけど、向いているんじゃないかな?
MN―受けてみたいです。
KY―最初から結果がわかっていたら教える必要ないよね~。
アート、特にパフォーマンスは教えたくないっていうか、教えること何もない。その域から外れて個人スタイルを作った人がパフォーマンスやっているじゃん。それ教えちゃっても、私の二番目になっても何も面白くない、型がないからさ。型があるものとか、派の選び方とか、そういう人がいるんだったら、是非プロの人に教わりたいけど、やりたいかやりたくないかだけじゃん。だからどちらかというと、彫刻教える方が好きだね。自分が調べて伝えられることがある。
MN―彫刻の作品も今作っているのですか?
もう結構、ゴチャマゼだけれどもね。ここの部分は彫刻にして作っているなとか。
オーガニゼーション――カルチャープッシュ
MN―カルチャープッシュというオーガニゼーションを立ち上げ、やっていると書いてありましたが、経緯を教えてほしいです。
それは創始して役員だけやってる。今、実際運営しているのは私じゃないのだけれど。もともとジャンル横断的な場所が好きだから、もっと活性化する場所が欲しいな~と。でも大きなサイズになると大変なことになるし、アーティストがやるには小さい活動だからこそ楽しいってところもある。その辺、最初どうしたらいいのかわからなかったんだけど、世の中って言っちゃおかしいけど、もっと他の人との接点が増えたり、やり方を見たくて、とりあえず会社を創ったんだと思う。
MN―どういう活動をしているんですか?
今は助成金をあげる人みたいになっていて、ダンスとか、彫刻とかというのがないようなことをやりたいと言っている人がいたら、それいいねって言う(笑)。で、500ドルとか1,000ドルとか、ちょっとだけだけど、それが種になればいいな~と思って出す。それで何かを仕上げるような金額ではないけど、最初が結構肝心じゃない? あんまりプロダクト重視じゃないから、会社として大きくなるのは難しいんだけれどもね。だからこそ、後押しが重要ではないかと、そういう意味でカルチャープッシュ。最初は、その人のプロジェクトのために自分たちでいろんなジャンルの人、それこそアート界にとらわれずに、お医者さんだったり、シェフ、ヨガの先生……いろんな人を集めてきて、その人達のスキルシェアみたいなことをやっていたのね。多分目的は一緒だと思うんだけど、私そのイベントやるのに、物凄い労力と時間を使うから、これはちょっと他の人がその役をやっていれば、そのアイディアをサポートするのがいいねって話で、今は両方やっているんだけど。
MN―何人くらいでやっているんですか? メインメンバーとか。
最初立ち上げたのが3人で、今は、役員と一人、ディレクターで、あとはスタッフの人がたま~に。
MN―オフィススペースは?
ないない。全部コンセプチュアルな。イベントが出るときは、そこが場所って感じで。
MN―グラントとか、資金はどういうふうに?
資金集めは、個人を集めてきてやっている。
MN―偉い。
本当に個人。だから結構大変だよね。
KY―NY市のグラントが通ったんですか?
2回くらい取ったかな~イベント用に。それも結構、4、5年掛かるんだよね、ロースターに入ってくるまでに。でもそれがなかなか難しくて。
KY―でも少しずつ。
なったらいいけどね。
MN―BALとちょっと似ているね。
大変だよね。アイディアとして、そういうのを求めていることを提示する意味はあると思うから。そういうこともあるんじゃない? 本当にビジネス意識してやっているわけじゃないんだけどね。
KY―僕は、日本でそういう組織がないから、多角的な視点でやっているんですけど、NYでそういう活動をする意義ってどんな感じでしょうか?
意義はあるんだけど、やっぱり結果重視ってなっちゃうから。そうじゃなくて、そういうプレッシャーがない場所でもいいんじゃないかな。多分自分一人だと、他の職種の人のところにパカパカッて行ってノックしなくなるじゃない、時間がなくて。会社としてやれば、エクスキューズみたいなもんだよね。それが私にとってきっかけ。そういう場所が欲しいから創った。多分、そういうことやっている人はたくさんいるし、それを捜して、その会社とコミュニケーション取って繋ぐより、自分で創っちゃったほうが早いんだ~と思ったのね(笑)。
MN―日本で活動するのとNYで活動することについては? 日本で活動する可能性の面白さみたいなものは見ていますか?
どこも一緒じゃない?
MN―あんまり違いはない。
それは違うと思うよ、やり方とかね。でも今、私が日本行ってっていうのは……もう友達がこっちにいるから難しいよね。でもどこで始めても、どこに終わっても結局姿勢は同じ。作品とかね、それは影響を受けると思うけど。あんまり意識していない、そこに行ったらそこで考えよう。
KY―池上高志さんとも親しいですよね。BALでもパフォーマンスしていただいたことがあるんです。[*2]
あっ、そうなんだ。私も2回くらい呼んでいただいたことがあって、大学で講義したんだよ。オープンなことをしたいって言う人だから、被っているね~って。
MN―池上さん、面白いですよね。科学者で、最初どういう人なんだろうと思って。
だから、そこ関係ないんだよ。科学者だとか、ダンサーだとか、最終的に関係ないってことだよね。彼なんかNYに呼べばいいのにね。BALはこっちではやってないんだ?
MN―でもWhenever “Wherever”フェスティバルだから、東京じゃなくてどこでもいいのかも(笑)。
[2012.12/NYにて]
構成=山崎広太、印牧雅子
笹本晃|Aki Sasamoto
1980年横浜市生まれ。ニューヨーク在住。ニューヨークを拠点に活動を展開するアーティスト。10代で渡英、その後アメリカの大学、大学院で美術、ダンス、彫刻等を学ぶ。個人の心理状況やパーソナリティーの表徴としての癖や習慣に興味を抱くようになり、以後、日常的な行為や手順をテーマにパフォーマンス/インスタレーションを発表。ドイツ・グッゲンハイム美術館、2012光州ビエンナーレ、ホイットニー・ビエンナーレ2010、2008年横浜トリエンナーレなどに参加。ニューヨークにある非営利団体カルチャープッシュの共同創立者。
- “Movement Research Spring Festival 2010: HARDCORPS”。インタビュアーの西村未奈は、4名のキュレーターのうちの一人として“Movement Research Festival Spring 2013: Alternate/Shelter”に携わった。Back
- 《Exploring Performances Experimentally = EPE》(企画:河村美雪、Whenever Wherever Festival 2010、アサヒ・アートスクエア)。同じくWWFes 2010のプログラム《気象と終身—寝違えの設置、麻痺による交通》で、笹本晃さんは映像作品を出品。以下のアーティストとともに参加。小林耕平、高嶋晋一(企画)、冨井大裕、中井悠、橋本聡(企画)。Back