桜井圭介|3
Interviewer|福留麻里
ダンスの本質
―いきなり話とびますけど、そんな中「ダンス警察」っていうじゃないですか?その時に、今言ってたみたいな「君のダンスの中に、何を目指してるのかとかそういうことはあるのか?」みたいなことなんですか?
そうとも言えるし、「ダンス未満」みたいなものに対して、それはまだダンスになっていないよ、とかダンスとしてクオリティが低いよとか、ダンスとしての格が低いです、とか。「ダンス警察」ってあえて言うことで、一番大事なポイントは、とにかくダンスはそんな簡単なものではない!っていうことね。そんなお手軽に「クリアー」できない。「アクセス」はできるけど。こういうことは、昔から言われていることだけれども。
―これって、「コドモ身体」とか「いろいろなものがダンスって呼べるんじゃないか」ってことにつまずきを感じるって言っていたこととすごく関係ある気がしますね。アクセスできたことで、ダンスだと思っちゃったとして、本当にそれがダンスって呼べるのか?っていう問いに答え続けていく手前で終わってしまいやすいっていうか。それは自分自身にも言えることですけれど。
若い人たちが、ダンスに何を仮託してるのかってことだよね。何のために、あるいはどうしてでもいいけど、何で踊るのかってことだよね。例えば、もっと大きな枠でいうと、今、身体表現の上で、演劇の方がアドバンテージがあるよね。演劇のいろいろな可能性の方があるように見える。実際いろいろな面白いことやってるのは、演劇ってことになってるよね。ダンスでそれに拮抗するような、新しい動きってことがあんまりないよね。そのことをダンスをやってる人はどう捉えてるのかな?っていうのは思う。
演劇の人は、今演劇がどういう状況で、ちょっと上の世代がどういうことやっててみたいなことを考えすぎてるようにも感じるけども。「傾向と対策」はまあちょっとあれだけど、自分自身の問題意識を演劇としてやるにはどうすればいいか、みたいなことを演劇の人は考えてやってるように見えるけど、ダンスの人はその辺がよくわからない。
―でもちょいちょいはいるんじゃないですか?
だれ?
―身近だけど、神村(恵)さんとか。
神村さんは考えてるけど、神村さんの場合は、ダンスに対する愛が薄い(笑)。こないだの場合(「消えない練習」)はいろいろなやり方で外側から負荷をかけて、外側から変容させるようなことによって作品が成立してるでしょ? これをやると、思わぬグルーヴが出てくるけども、「ちゃんと踊る」とかとは別の話になってる。グルーヴを引き出す仕掛けを外側から被せてるだけなので、もとになってる振りを面白いものとして作ってないじゃない。
「振付」って動きを作ることだから、その面白い動きに身体を入れると面白いことになる!ってなるじゃん? 外側から圧を加えて、面白いことをやりますっていうのは、違う。それをやってなんとかしのいでるけど、もうそろそろやめて、ダンスの本質に向き合った方がいいんじゃないの?って思う。
―その「ダンスの本質」って言ってるのは……
動き。なんかね、フレーム作っちゃうと身体がラクするなって思って。
―作品っていうよりも、身体のディテールとか、動きのディテールっていうのが桜井さんは大事って感じなんですかね。
作品っていうのはいろいろなアイデアでとりあえず面白く作れるとしても、ダンス単体で面白いってことがあんまりないな、っていう。あと単純に、リズムが複雑だったり、ステップが超複雑だったりするものを、みんなあんまりやらないなっていうか。
―そういうものを桜井さんは今求めてるってことですか?
最近ないね。見たいってことかな。
―桜井さんがダンスに期待することっていうのを改めて聞いていいですか?
見たことがないような動きとか、見たことがないようなダンスが見たいよね。それは、ぱっと見普通なんだけど、驚きの連続でできてるとか。一見何気ないようなことだけど、よく見るとすげー!みたいな。
―桜井さんがちょっと萎えてるのは、驚きがなくなっちゃったからってことですか?
いやいや。確かに驚きが少ないのは事実だけど、いいダンスはびっくりしなくてもあるよね。
―心を動かしたいってこと?
そう。心を動かすような動きを見たいよね(笑)。それは自分のメンタルの問題もあって、不感症になってる部分がある。
―でもダンスじゃないものには、感じ入ったりしてそうですよね?
例えば演劇とかはそこに、ある種のロジックがあるよね。そのロジックがあって身体がそこに置かれてるから。お話ってすごく強くて、お話がいいと泣けちゃうし、お話が陳腐だとシラケるから、ある意味わかりやすいよね。でもダンスってそういうものじゃないよね。
―話してるうちに、だんだんダンスって本当に不思議なものだなって思ってきちゃいました。
誰か若い批評家が、今時の若者の身体感覚みたいなものを前提としたダンス批評みたいなものをね、擁護したりとか、これこれこうだから、これは重要なんだ、面白いんだって言って欲しい。
「ダンス警察」とダンスの歴史
―でも今の桜井さんの視点だから、言えることもあるんじゃないかって思います。
今は、欠けてるものについては言えるけど、それをどうしたらいいかとかは言えないよね。
―そうか、その桜井さんが欠けてるって思うものを面白いっていう人がいて、その人は何をもってして面白いって言ってるのか、そこにアクセスできれば、その欠けてると思うものを面白いって思えるかもしれないってこと?
そうそう。昔の人はこんなことを思ってダンス作ってました、みたいなことがあって、へーそういうことは今誰もやってないね。みたいなことに近い。
―そうかたしかに。批評ってそういう役割があるんですね。
だからほんとは歴史も大事で、みんなダンスの歴史をちゃんと一個一個検証していくっていうのも大事ってことだと思うんだけどね。
―そうですね。だから、ちょっとこじつけのようだけど、「ダンス警察」は、すごく長い意味での歴史っていうよりは、桜井さん視点のある一つのダンスの見方を辿ってみることで、見えてくることとか、楽しめることとか、自分なりに考え始められることがあるみたいな感じなのかなっていうか。ダンスって、見るのが結構難しかったりすると思うんですよね。
じゃあ、「100分でダンスの歴史おさらい」みたいなこともあるかもしれないね。
―もし「100分でダンスの歴史を」って言っても、そこには、ここを大事って思ったっていう桜井さん視点が入ってきちゃうと思うんですよね。で、それが大事な気がしていて。「俺としては、これがダンスだ!」をやるわけだし、その「俺としては」が見たいし、聞きたいなって思うんですよね。「吾妻橋」で見た色々なダンス、やっぱり面白かったんですよね。その頃、面白いダンスが、世の中にたくさんあったっていうのもあるけど、そこには必ず視点が入ってるはずだと思うし。
でも、そうなんだけども、まずは、面白いものがある、やる人がいるっていうのが順番としては先なんだよね絶対に。やる人がいるから「お!」って思うわけで。無からは何も出てこない。なんじゃこりゃ!って思わないと。
―そうですね。それは、ここまでのヒストリーを聞いていて思いました。だから、元気がないっていうのは、やっぱり桜井さんの問題ってわけじゃないんだなって思った。そこにはいつだって私自身も含まれているけど。
半分は時代の問題だよね。そもそも、わけわかんないことが多すぎる社会っていうか。そういうことに怒ったりしないですむように暮らしたいよね。こないだの最終日のデモが決壊して、DJブースでガンガンいい曲かけてたりして、昼間だし、これは久々に楽しかっただろうなっていう。お天道様の下で、音楽があって、踊りですよ。
―まあ、そこに理由があるっていう踊りですよね、そういうときは。
自由だ!とかふざけたことは許さない!とかね。
―内側から出てきてるってことなのかな。
そう。それで、aokidにはこだわっちゃうんだけど、aokidはあんなにガチャガチャ動かずにもっとじっとした状態で踊るみたいなことをやればいいのにって思っちゃうんだよね。
―そういうのもたまにやってるんですよ。例えば、ギターを弾くとかじゃなくて、弦を弾いて、まずは聴くこととか、ものがあるとか、そういうささやかなことから始まっていくような。それは凄くいいな!と思って。ここ一番って時には頑張っちゃう感じもあるけど、それを支えているのはそういう凄く繊細なことだったり、めちゃくちゃ考えたりしてるっていうことがあって、そういう部分も含めて、新しい時代の人だな、っていう感じがありますね。
じゃあ、aokidの そういうものをちゃんとみたいですね。
―最後に「ダンス警察」に寄せて一言お願いします。
「ダンス警察」って言ってるけど、それって要は「ヒール」でしょ? ヒール的なことを、あえて年寄りなので、
―買って出てください(笑)。
本当はそういう性分じゃないわけなんで。「ダンスお悩み相談室」の言い方を反転させただけなんで(笑)。
―でも、桜井さんのこだわりの何かを、見せてもらうってことでいいんですよね。
ダンスは、自分にとってはこういうものだっていうことを、もう年もとってるので、言わせてもらいます。っていうね。それは年寄りの言ってることだから、話半分に聞いてもらえばいいんです。「じじいがそういうこと言ってるわ、めんどくせえな」っていうね。
―そう思われること前提で、開き直って色々言ってください。じゃあ、映像とかトークとかで色々見せてくれるってことでいいですかね?
映像は色々みます。これから俺の仕事っていうのは遺言その1、その2、その3って感じですよ。
―ありがたいです(笑)。今日はりがとうございました!
桜井圭介|Keisuke Sakurai
音楽家・ダンス批評。「吾妻橋ダンスクロッシング」オーガナイザー、三鷹SCOOL共同代表。『西麻布ダンス教室』『ダンシング・オールナイト』など。