Body Arts Laboratoryinterview

明日のアーのコントについて
──コント的な正解を求めない・夢っぽい感触

明日のアー
2021年度本公演
「そして聖なる飲み会へ」
Photo: 明田川志保

大北 明日のアーはどうでしたか?

吉田 まず勉強になるなというのがあるんですけど、新しい言葉をすごく使うという……。

大北 僕らは1年に1回本公演というかたちでやっていますので、1年間溜まったことをやったりするんですけど、やはり新しい概念に対して違和感を溜めることがすごく多くて。マンスプレイニングだとか、新しい概念、新しい言葉に対するモヤモヤをギャグにすると、割と心の中でスカッと解消することがあるので。朝ドラのコントにしても、朝ドラのポジティブな推進力ってあるなとモヤが溜まってたので一遍ギャグにするとか、そんな感じですかね。

トチアキタイヨウ ⼤北さんはコントの研究みたいなところから入っていってるから、そうなんだろうなと思って。僕自身はあまりそういう見方はできないというか、わからないと思うので……。

明日のアー
《全日本マンスプレイニング
選手権》
WWFes2021
Photo: Natsuki Kuroda

明日のアー
《朝ドラ「お日さん」》
WWFes2021
Photo: Natsuki Kuroda

——12月の本公演(「そして聖なる飲み会へ」カマタソウコ、2021年12月10日−12日)を見た方は、今回との違いがおわかりになったと思いますが、今回は大北さんが狂言回しのような役割で登場していました。O,1、2人のお二人は改めて、明日のアーの今日のコントを見ていかがでしたか? みっちり4作[*1]ありましたけれども。

外島 「ジェントリフィケーション」もそうですが、言葉のひっかかりがあります。吉田くんと練習しているときもそうなんですけど、言葉のイメージというのが……。以前、眞島竜男さんとお互いに知らないお題を与え合って『bid』という小説集をつくりました。そのときに僕は、「会社」というお題を与えられました。知らないからこそ、むしろイメージによって話や人物を作っていくことができる、という笑いの方法といえるものがあるのかな、と。ジェントリフィケーションやマンスプレイニングなど、そうした結構最近聞くようになった、あまり聞き慣れていない言葉を使うときにも、言葉にイメージが社会的な意味でもくっついていると思うのですが、そこから新たなイメージを引き出すというのが笑いの一つの方法なのかなということを思いました。

吉田 僕は大北さんの台本を演ったこともありますが、お笑いを使いますけど、それだけじゃない部分が大きいと思います。新しい言葉の概念とかも使いますけど、一番狙いたいのはそこでもないんじゃないかと。結果的に見えてくるのは、そこじゃない部分なのではないかといつも思っています。

——笑いという形式を使っているけれども、それに収斂するものではない。

吉田 大北さんにはそういう狙いはありますか? きれいに完結するわけじゃないじゃないですか、いつも。

大北 そうですね。きれいにはしない。

吉田 そこは意識されているんですか?

大北 きれいに終わらせるのはよろしくないという意識はあります。逆に居心地が悪いというか。何なのそれ?というところで終わった方が気持ちが良いというのは感覚としてあります。僕と吉田さんは、いとうせいこうさんと「コントを作る会」というミーティングをしていて、せいこうさんは「コントの抜け」という表現をするんですけど、コントをズラして終わったりする。それで繋いでいくと夢みたいな感じがして気持ちが良いんだみたいなことを言ってまして。この前の僕らの公演も「これが飲み会のノリか〜」「違いますよ、これですよ」とか言ってるのが、すごく夢っぽいんですよね。その理由はわからないですけれども、夢っぽい感触というのは見てて心地が良いというのはあります。

——ファンタジーでもあるような。

大北 そうですね。もう一つ別のリアリティーをやるみたいな……。コントっぽい正解を求めないようにしようというのが2021年の本公演でした。

吉田 神様みたいな崇拝の対象というか、超越した何かがちょっと見え隠れするようなところがあるじゃないですか。それが何なのかなと。

大北 コントと漫才の違いで、コントにはよく超越した何かが出てくる。漫才は人として超越した何かではないような気がするんですよね。コントはフィクションであるから、フィクションで正常を超えるのは、もうちょっと飛び超えた何かである必要がある気はします。漫才は人の関係性のものなので、別の論理があるからそこにいったほうがいいと思うんですけど。天災とか災いとか人のせいではない異常が来るものの方が好きです、コントは。

明日のアー
《ノリの培養》
WWFes2021
Photo: Natsuki Kuroda


コントを演じる人格・ノリの暴力性と笑い

O,1、2人
《カツアゲ》
WWFes2021
Photo: Natsuki Kuroda

トチアキ O,1、2人の場合は、役名ってあるんですか?

外島 ないですね。

——二人で完結しているという関係性があるかもしれないですよね。

トチアキ 誰を演っている、誰が演っているということがあって。アーは素人ですみたいな人が集まってやってたりするので、俳優さんて⼈格ないじゃないですか。個人を置いておく。そうじゃないところがアーでは⼤事なんじゃないのかなと思います。役があっても、あくまで本人なんだと。その辺のことが今話していたことと少し繋がるかなと思って聞いていました。

明日のアー
《ノリの培養》
WWFes2021
Photo: Natsuki Kuroda

大北 今日はダンスのイベントということで、お互いにちょっとダンスっぽいというか、パフォーマティブなコントがあったなと思いました。声が遅れてくるのもそうですけど、声を入れ替えるのはどの辺からきているというのはありますか?

外島 カツアゲのコントは2013年くらいのものなんですけど、まず腹話術的なものをやったから何か繋げようと思って、次は腹話術というよりお互いに身体の動きが入れ替わるのはどうかと。それでいいんじゃないかみたいな感じで決定しました。

吉田 O,1、2人の最初に書いてあるコピーが「1人でできることを2人でやったり、2人でできることを1人でやったりする」で、いつも人称の問題を扱っていて、お互いを入れ替えることはしているかもしれません。

——O,1、2人には、日記を書いている主体を問題にするようなコントもありますね。一方、明日のアーは今回、集団のノリがテーマになっています。それぞれ笑いに対するクールな距離感があると同時に、《圧迫面接》にもノリの側面があり、そこで両者ともに笑いの暴力性に触れているようにも感じました。また、そこがとてもクリティカルに思いました。

大北 ノリの暴力性は同調圧力で笑いの暴力性は関係性のものかな、マウンティングをするような。さっき人によらないものと言いましたけど、結構、集団でというのはギャグにしやすかったりしますね。個人でない集団の力というのは人っぽくないのかも。圧迫面接もそうですよね。その場の独特のノリがありますよね。

吉田 圧迫面接のシーンを演ってて、すごい演劇だなって思ったんですよね。これが演劇なんだ……!と。めちゃくちゃ就活生とか練習するんですよね。

外島 圧迫面接のコントを書くのに全然知らなかったので、ネットで検索して調べたんですけど、こういう圧迫にはこう答えましょう、みたいな手本が結構載ってて。それで練習して受かったりするわけですよね。そこから、演技と社会性、というのも見えてきて、それはおもしろかったです。

[2021.12.24/青山・スパイラルホールにて]


Photo: blanClass

O,1、2人(外島貴幸+吉田正幸)O, 1、2nine
コント/パフォーマンス
2011年11月29日結成。美術家・パフォーマーの外島貴幸と、コントグループ「テニスコート」の吉田正幸のユニット。1人でできることを2人でやったり、2人でできることを1人でやったりする。主な上演に「ヌケガラ(OFF)とマトイ(ON)〈正体を隠すこと(ON)とそれを脱ぎ捨てること(OFF)の、あいだにあるものを教えなさい〉」(2021)、「フロムカトリ」(2020)以上、TALION GALLERY(東京)、「井田田回回田田土」blanClass(2019、神奈川)、「ミルクイースト パブナイト」milkyeast(2015、東京)などがある。

外島貴幸Takayuki Toshima
2004年B-semi Learning System of Contemporary Art修了。2007−08年四谷アート・ステュディウム在籍。笑いを軸に、美術的な作品やコント、テクストなどを用いた探求と実践。主な展示に「ヌケガラ(OFF)とマトイ(ON)〈正体を隠すこと(ON)とそれを脱ぎ捨てること(OFF)の、あいだにあるものを教えなさい〉」(TALION GALLERY)、第13回恵比寿映像祭「揺動PROJECTS: Retouch Me Not[日本現代作家特集]」(東京都写真美術館)、主な公演に「背中を盗むおなか‐リプライズ」(blanClass)など。

吉田正幸Masayuki Yoshida
武蔵野美術大学卒。在学時コントグループ「テニスコート」結成。以後笑いを軸にジャンル問わず活動。主な公演としてテニスコートのコント「出汁が出る出る」(ユーロライブ、2019)、出演として「いとうせいこうフェス」(東京体育館、2016)、フロム・ニューヨーク公演「サソリ退治に使う棒」(駅前劇場、2018)、NHK「シャキーン」(2016−2022)。また脚本家としてはNHK「シャキーン」(2016−2022)、TXドラマ「びしょ濡れ探偵 水野羽衣」(2019)などがある。

Photo: 明田川志保

明日のアーasunoah
コントユニット
web上でおもしろコンテンツを探求してきた大北栄人がよく考えてきたコントを俳優や友人に演じてもらうユニット。よく考えてきていることがよくわかるコントが特徴。コントとは笑わせることを目的とした短い芝居、スケッチ。
https://asunoah.tumblr.com

大北栄人Shigeto Ohkita
2006年より『デイリーポータルZ』に参加しユーモア系の記事と動画を制作する。2015年にコントの舞台である明日のアーを旗揚げ。以降毎年本公演を行う。監督した短編映画で”したまちコメディ大賞2017グランプリ”を受賞。コメディを考えるワークショップを開催し、近年はユーモアと笑いを切り離すことを志向している。

トチアキタイヨウ(栩秋太洋)Taiyo Tochiaki
ダンサー・俳優・演出家。1998~2009山海塾ダンサー。知覚と記憶、共同体などをテーマにフィールドワークを重ね、舞台作品や参加型プロジェクトなどを制作。「私は山なのではないか?」(2013)、「100年後のまつりの支度」(2015)など。その他、石を食べたり迷子になるワークショップを主宰。


関連動画

  1. 《ノリの培養》《純情商店街のジェントリフィケーション》《全日本マンスプレイニング選手権》《朝ドラ「お日さん」》Back