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ジェニファー・モンソンの水にまつわるフィールドワーク


ウィーン インパルスタンツ国際ダンスフェスティバル

インパルスタンツ国際ダンスフェスティバル(ウィーン)が、昨年2010年7月15日から8月15日まで開催され、ダンスウェブ奨学金プログラムには1013名の応募者の中から34か国、69名が選ばれ参加しました。今回のメンターというコーチングの役割をするアーティストは、主に米国で活躍されているサラさん(Sarah Michelson)とやすこさん(Yasuko Yokoshi)でした。7月14日ダンスウェブメンバーの到着時より8月18日の出発まで、メンターとメンバーの間でワークショップ、ミーティング、食事会などが数回行なわれました。

フェスティバルの概要は西村未奈さんが書かれた2009年度レポートを参照して頂くとして、今回は今後このプログラムへ参加を希望されている方向けの情報と、受講した講師の印象などを幾つかご紹介出来ればと思います。

ダンスウェバーの顔合わせ

ダンスウェブ奨学金プログラム

はじめにこのフェスティバルは、2011年で28回目をむかえ、この直後にベルリンで開かれる「タンツ・オーガスト」と並び夏期のダンスフェスとしてはヨーロッパ最大のもので、多くのダンス関係者やダンスファンが毎年3000人近く集まります。創立者の一人リオさんは、元々バイクメッセンジャーをしていた過去を持ち、彼によれば、今では1年の準備期間を経てウィーンの街全体を巻き込んだ大掛かりなものになっていますが、最初は空いている倉庫を借りての小規模なものだったそうです。

ダンスウェブ奨学金プログラムは、東欧からのダンサー達を個人的に家に泊めたりしていたのが年々増加したことをきっかけに、若手アーティスト支援を目的に創られました。ただ年々一人当りにかかる費用が増え、昨年は6.450ユーロがかかり、内2.150ユーロを母国から探す仕組みになっていて、多くの参加者が苦心して集めることになります。過去日本人参加者は既に文化庁、ポーラ財団より長期滞在費を得ていた者、在籍していた大学または知人より個人的に融資してもらう形で費用を捻出していたようです。私の場合は、ダンスウェブ関係者とメールでやり取りし、ぎりぎりまで分からず自腹覚悟で到着し、銀行の引き落としトラブルがあったため、支払いが遅れている内に半額払ってくれるスポンサーを見つけてもらったという幸運がありました。同じく日本人で参加していた宇田川さんは全額は捻出出来ず、払える分だけ支払った後はダンスウェブ側がスポンサーを見つけてくれたそうです。ですから、それぞれ個人の状況によって事情が変わってきます。お金に関しては決してフェアではない現実と直面し、お互いの状況を探り合うのが最初の顔合わせ時の主な会話でした。ドイツでは毎年自国の参加者のために確保している金額があり、今年初となるエジプトからの参加者は、ヨーロッパから教えに来るダンス関係者に少額ずつ貰い参加出来たそうです。

プログラム最後に契約書にサインするのですが、学生ハウス滞在費、公演を見た数、ワークショップ、レクチャーなどの受講数、スタッフの人件費等が書かれています。自転車レンタル費、食費は別に個人負担です。通常の料金で同じ数だけのものを得ようとすることを考えれば、このプログラムに参加する意義は多いにあります。

プログラムについて

プログラム内容は、週と週末単位で通常クラスにあたるワークショップがある他、choreographer’s venture、pro series、coaching projectsがあり選べます。ワークショップに比べ時間が長いため、他に受講したくても朝のクラス位しか取れません。全てにモチベーションレターという講師に向けての手紙を書くのですが、だいたい講師ではなくフェス関係者が経験から選んでる場合がほとんどと聞きました。choreographer’s ventureは3週間丸々参加で、申し込み時に30ユーロかかり(選ばれなくても)、プロジェクト費用はかかりません。ディヴィス・フリーマン Davis Freemanのワークは公演参加のオーディションを兼ねていました。pro seriesは約2週間で、マーテン・シュパンベルグ Marten Spangbergのアンチダンス論を聞くレクチャーとギターを弾く小パフォーマンス参加といった内容だったようです。

私は各1週ずつジェニファ・モンソン Jennifer Monson、ジェレミー・ギド&イゴール・ドブリチック Jeremy Xido & Igor Dobricic、イヴォ・ディミチェフ Ivo Dimchevのcoaching projectsに参加出来ました。事前にだいたい第3希望まで出すのですが、着いた翌日カードを貰って希望と大幅に一致しない場合は変更内容を相談し解決します。ダンスウェブだけでなく、人気の講師には受講者が殺到するため、入れないクラスの場合キャンセル待ちをするか、誰か交換してくれる人を探すしかありません。人気の講師のクラス数が増えたり、急遽来れなくなる講師もいるので、一般で受ける場合も注意する必要があります。年毎に会場が変わる可能性もありますが、幾つかある会場の移動距離を考慮し、講師の評判など聞いたり、ネットで調べておけば約94クラスもある中からでも絞り込めると思います。ジャズ、モダン、リサーチ、コンテンポラリー(ボディワーク、有名カンパニーのレパートリー)、即興、ヒップホップ、ハウス、ポップ、ヴォーギング、バレエ、セオリー、アフリカン、ヘイシャン(ハイチのダンス)、舞踏、ヨガ、子供向け、ティーンエィジ向け、ゴールデンエイジ向け、ハンディキャップのある/なしに拘らないクラスなど種々様々です。

公演について

公演もフェス常連のウルティマ・ヴェス、ローザス(p.a.r.t.sも含む)やマチルダ・モニエ、アラン・プラテル、ルイス・ルカバリエ、マリー・シュイナール、ロビン・オリンなどの大型カンパニー、常連講師のベノア・ラチャンブル、ディディ・ドルビエ、デビッド・ザンブラーノ、グザビエ・ ル・ロイ、今年人気を占めていたジョナサン・バロウ、キース・ヘネシー、若手作品では2006年ダンスウェブ参加者のピーターとギルヘルムが公演。他にもジェローム・ベル、メグ・スチュアート(本のプレゼンのみ)などがあり、私は追加支払い分以外の40作品を毎日(時に2本立て)観ることが出来ました。イヴォ・ディミチェフ、キース・ヘネシー、ジョナサン・バロウ(本のプレゼンも含む)に関しては、特筆すべきものがあります。また個人的にはジェレミー・ギドーのビデオを使った作品も興味深かったですし、室伏鴻さんの踊りも堪能しました。

応募について

応募時に履歴書に加え推薦状が3通要り、出来るだけフェス関係者や常連講師、カンパニーなどに書いてもらった方が有利です。それに加え、審査はその年のメンターにもよるので、3回挑戦してやっと通る人なども出てきます。写真、アーティスト・ステートメントも重要なようです。また以前の参加者がまた応募した場合、リーダーとして毎年二人選ばれ再参加出来ます。私はウィーンの街もフェスティバル自体も知らないことが多かったので、ダンスウェブに参加出来て良かったと思っています。

ジョナサン・バロウが本の中でこう書いています。

「助成金に応募した際、あなたがこれからすることをうまく説明しなければならない。これは良い作品をつくれることと同じ意味ではない。にもかかわらず、この2つはよく混同される」

このプログラムに何回も応募して通る人もいれば、コネがあって事前に選ばれている人もいます。参加すると、ビジネスとしてのヨーロッパダンス業界も見えてきますし、ダンスウェバーはその恩恵も受けます。通常高額なクラスが多いので、多く受けたい場合は応募されてみるのをお勧めします。

[おおとし・めり|振付家・ダンサー]


・ダンスウェブ情報(2011年12月15日締切)
http://www.jardindeurope.eu/index.php?id=46

・助成団体 
http://www.jardindeurope.eu/m_link.php?id=31&method=frame


ウルティマ・ヴェスによる野外でのオープニングパフォーマンス

ダンスウェバーとエイズガラ公演を行なったアントニー・リッツィーとペニー・アーケード

シャーマニズムと謳ったクラスで人気を集めるキース・ヘネシー

ダンスウェバー パーティ|宿泊施設で料理をした際不運なことに、アラームが鳴り消防車が来てお金を払うことになった参加者が2名いた。フリーキスや、ペニー・アーケードの受講生の中から有志がバーレスクを踊り、募金を集めた。