ImPulsTanzレポート|1
Text|西村未奈
ImPulsTanzとdanceWebプログラム
1.
ImPulsTanz
7月中旬からウィーンで行なわれている、ImPulsTanz(インパルスタンツ)——ウィーン・インターナショナル・ダンスフェスティバルに5週間参加しています。ImPulsTanzとは、ヨーロッパで最大のダンスフェスティバルで、今年にしむら・みなで26回目を迎えます。60以上もの通常のワークショップに加え、参加者が7時間×1週間もしくは2週間を特定の振付家と過ごし、作品を制作したり、公演を行なったり、企画を立ち上げたりする、リサーチ・プロジェクトが充実しています。
リサーチ・プロジェクトには、コーチング・プロジェクト、プロシリーズ、Choreographer’s ventureなどのプログラムが含まれ、第一線で活躍する振付家がそれぞれのプログラムを主導します。今年は、約15のリサーチ・プロジェクトが行なわれています。ただし、リサーチ・プロジェクトに参加希望の場合は、それぞれにつき、志望動機を事前に送り、審査に通らなければならないので、全ての希望プロジェクトに参加できるわけではありません。
フェスティバルと提携している4つの劇場では、フェスティバル期間中、毎晩、ダンス公演が行なわれており、ローザス、フォーサイス、キリアン、ヤン・ファーブルなど、ベテランのダンスカンパニーはもちろんのこと、欧米で活躍している、実験的な作品を発表する若手や個人の振付家の公演を一気に観ることができます。公演後は、アーティストの交流の場として設けられているフェスティバルラウンジのクラブで、踊ったり、ダンスフィルム上映や、各ダンスカンパニーの公演オープニングパーティーなどのイベントも行なわれます。
2.
スカラーシップ・プログラム danceWeb
ImPulsTanzには、danceWebとよばれる若手アーティストのためのスカラーシップ・プログラムが設置されています。私も、今回このプログラムによって、ImPulsTanzに参加しています。
danceWeb プログラムでは、毎年、およそ63か国から選ばれた、63名ほどの若手アーティストが交流と研修を目的に、ビエナにて5週間を共に過ごします。 danceWebberとよばれる、このプログラムの参加者は、ImPulsTanzで行なわれる全てのワークショップや、ダンス公演に無料で参加する権利を与えられ、リサーチ・プロジェクトにも優先的に参加することができます。63人のdanceWebberは、同じ宿舎で生活をし、フェスティバルのロゴの入った自転車で、ウィーンの街を劇場からスタジオへと走り回ります(この光景はウィーンの夏の風物詩になりつつあるようです)。
danceWeb プログラムには、毎年、Mentorとよばれる、担任の先生的なアーティストがつきます。今年は、オーストリアとベルギーから2人の振付家、フィリップ(Philipp Gehmacher)とクリスティーヌ(Christine De Smedt)が選ばれました。Mentorは、フェスティバル期間の前後に、それぞれ3日間、計6日間の集中ワークショップをリードして行なったり、週末のdanceWebサロン、またdanceWebberとの個別ミーティングを通して、個人的な問題から、アーティスト活動における課題までを63人一人一人と共有していきます。どのように、これらの時間を使い、若手アーティストを導いていくかは、まったくMentor次第なので、重要な存在です。
今年のdanceWebの活動は、「アーティストのself-organization」(どのように、自分のアーティスト活動や、他者との関わりをオーガナイズしていくか)ということにポイントを置いている傾向です。Mentorから提案された、様々なモデルを使い、ディスカッション、実践を重ねます。その時々で、キュレーター、オーガナイザー、批評家など、アーティストが色々な面を発揮することが要求されます。実際に、フェスティバルキュレーター、批評家、ウィーン在住アーティストのスタジオを訪問してのワークショップも行なわれ、作品制作・発表とともに、より大きな枠組みで捉えたアーティスト活動の可能性、開拓のプロセスを、共に、頭を悩ませながら模索、共有していきます。
danceWebberは、朝から晩まで続くワークショップやリサーチ・プロジェクトに加えて、毎晩の公演鑑賞と、週末のdanceWebサロン、リサーチ・プロジェクトによる企画の深夜イベントなど、想像を絶する忙しさで、3週目あたりには、病気の人も、ちらほら現れてきます……。が、このアーティストの青春ともいえる濃密な5週間は、その後の人生を左右しかねないほどの影響力と可能性を秘めています。
3.
danceWebの参加状況
danceWeb プログラムへの応募には、志望動機を書いた手紙と、推薦状3枚、プロフィールを提出します。年齢制限は、一応22才から30才までとなっていますが、参考程度のようです。このプログラムには毎年、各国から2000人以上の応募があるそうですが、アジアからの応募は欧米のそれと比べると、とても少ないようです。今年でいえば、アジアからは、韓国1人、台湾1人、日本2人が参加しています。アメリカからの参加者が一番多く、次いで、スウェーデン、ドイツ、フランスなどが多いです。一般のフェスティバルにおいても、スウェーデンからの参加者が意外に多い気がしたので尋ねたところ、スウェーデンは助成のシステムがとてもよく、海外での研修がしやすいそうです。また、スウェーデンにおける実験的な振付に対する新しい取り組みも、ヨーロッパで注目されはじめています(レポート2で、もう少し詳しくお伝えします)。他には、韓国からの団体参加者も目を引きました。アメリカのダンスフェスティバルにおいても、積極的に参加している韓国のダンサーですが、恐らく、大学などを通して情報が入手しやすい、もしくは提携している(大学の単位になるなど)といったシステムがあるのではないかな、と推測しています。
danceWebプログラムに参加する場合は、多くのディスカッションや、プロジェクトを行なうため、どうしても最低限の英語力が必要になってくるので、英語圏でない国からの参加者は、英語圏に留学経験のある人が多いです。でも、実際のところ、コミュニケーションする意志さえあれば、片言でも全く乗り切ることができます。フェスティバルで教えている振付家でも、片言の英語の人や、ドイツ語、フランス語で強行にクラスを行なう人など様々で、パーフェクトに英語をしゃべる人は少ないです。
4.
danceWebの応募条件と助成
最後に、danceWebプログラムの応募には、奨学金の3分の1の額を国もしくは、公的機関が助成し、スポンサーとしてフェスティバルに払うという条件がついてきます。その額は米ドルにして約3000ドルと、ちょっと憂鬱になる額なのです。準備期間も約3か月しかなく、助成金に応募するには間に合わず、ましてや、個人の若手アーティストの海外研修にその額を支給してくれるような機関は、アメリカでも、日本でも、そんなには見当たりません。応募用紙面上は、適当な名前を書いたのですが、実際のところの当てがなく、大変困りました。日本では、美術家を主に助成しているポーラ・アート・ファウンデーションに、そのようなプログラムがあることを知り、コンタクトをとってみたところ、すでに、来年の募集期間に入っており、時期が合いませんでした。
NY 在住でdanceWebに選抜された他2人のアーティストもスポンサー探しがうまくいかず、途方に暮れた私達3人は、合同で資金集めのイベントを行ないました。すると、多くのアーティストが、好意で、パフォーマンスを行なってくれたり、参加してくれました。あらためて、NYダンスコミュニティーのサポートの強さに、感動しました。資金集めももちろんのこと、イベントの内容自体が、刺激的かつ、アーティストの交流の場としても機能するものとなり、アーティストが自発的に物事を起こすと、こんなにも面白いことができるのか、と実感しました。
結果的に、そのお金を3人で割って、現地での食費にまわしました(食費、航空費はそれぞれのアーティストが負担します!)。航空券は、自分のマイレージで購入し、最終的に、私のスポンサーは、 danceWebプログラムの方が、ウィーンで見つけてくれました。アーティストも、フェスティバルも協力して最後まであきらめず、資金を調達する、というスピリットのようです。ただし、ヨーロッパからの参加者は、ほぼ全員、問題なく、国や、公的機関の助成で研修にきています。
次回は、実際に体験したコーチング・プロジェクトについて、レポートしたいと思います。
[にしむら・みな|ダンサー・振付家]
ImPulsTanz – Vienna International Dance Festival
http://www.impulstanz.com/