スタジオシリーズ レポート
Text|山崎広太
1.
2001年からNYベースに活動し、自ずから、日本とNYの環境の違いを感じ始め、日本の現状を何とかしなければいけないという欲求が生じました。海外研修に来られた方々は誰もが感じることだと思います。丁度、そのときにトヨタ芸術環境KAIZENプロジェクトのことを知り、応募に至りました。そして、このことを機に、自分はアーティストですが、日本の状況をリサーチして、改善に向けたあり方を追求し、少しずつですが積極的に行動を起こしたいと思いました。日本では、アーティストは作品を創作することのみに重点が置かれていますが、海外では、多くのアーティストが自らリサーチやキュレーション、対談などを行ない、よりよい環境を目指して働きかけ、行動しています。まずは、アーティストによるアーティストのためのオーガニゼーションが日本にも必要不可欠と考え、 Body Arts Laboratory(BAL)の設立に至りました。KAIZENプロジェクトでサポートしていただいた、「新人振付家育成のためのスタジオシリーズ」[*1]から始まり、ここまで拡張することができました。スタジオシリーズを支持してくださったトヨタ、メセナ協議会の方々には大変感謝しております。
2.
話は「新人振付家育成のためのスタジオシリーズ」に戻ります。KAIZENプロジェクトの応募要項を読んで、今一番、日本のダンスの現状にとって必要であり、また実現可能なことは何だろうと考えました。先ず私個人の経験から、私のパートナーである西村未奈が、NYのDTWで行なわれている「スタジオシリーズ」というプログラム(現在は、1シーズンに8人の若手コレオグラファーがこのプログラムを通して作品を制作・発表)を実際に経験し、作品を創るアーティストとして大きく成長したことから、是非、創作プロセスを重視したこのプログラムを導入したいと思いました。そして、このようなプログラムは日本であまり例を見ないものであることも、提案の動機のひとつでした。
こうしたプログラムは、振付家育成のために欠かざるべきものですが、このシリーズが行なわれたからといって、性急に環境や状況の改善に結びつくことはありません。あくまでも地道な作業です。しかし、これが継続されることにより、必ずやアートの環境が豊かな方向へと導かれていくものと考えます。アーティスト同士が、このようなプログラムを通して交流を持ち、自分たちの問題点を客観的に、熟練の振付家であるキュレーターと一緒に見据え、考えることは、作家としての大きな成長に結びつくことはもとより、そうした鍛錬を可能にする場=コミュ二ティの形成にもつながります。それ故、このシリーズは継続して行なわれることを望んでいます。
3.
スタジオシリーズのレジデンシー期間の最後にショーケースが行なわれ、そこで、幾つかの問題点と発見がありました。今回、このプログラムで独自に織り込んだ要素(NYのDTWにはないシステム)は、長年、日本でダンスに貢献された厚木凡人さんと、今もっとも実験的に活動されている手塚夏子さんにキュレーターをお引き受けいただき、そのような普段出会う機会のないようなアーティスト同士が、一同に介する場を設けたことです。横のつながりでさえままならない日本の状況で、縦のつながり、ましてジャンルの違いを超えてアーティスト同士が出会うということは、とても貴重です。例えば、異なる芸術志向をもち、お互い意義を唱えるアーティスト同士だったとしても、必ずやそこには、リスペクトし合う関係が生じます。そしてそれを端から見ている観客は、そのダイナミックな関係と、ダンスの広がりを感じるのです。このようなプログラムであるために、お互いしっかりと出会うことができるのです。ただの顔見知りでは、互いの公演を見ることや、密度ある意見交換をする機会はありません。これは最近のコンテンポラリーダンスシーンに欠けていることであり、年齢、考えの違いを超えて、このような機会が是非持てるようにしたいと思いました。これからアーティスト同士が交流を持つことのできるプログラムを、もっと提供していきたいと考えています。それともう一つ、劇場ではないスタジオという場での作品発表により、観客とアーティスト、ダンサーが一体となってコミュニケーションを持つことができました。また、集客も予想以上にありました。
公演終了後、アーティストトークを設けたのですが、反省点が一つ。それはモデレーターとしての自分の対応にありました。作品を発表した、福沢里絵さん、捩子ぴじんさんに対して、主催者なのにもかかわらず、アーティストとしての個人的な考えが入り、客観的な対応ができず、後悔と反省が募っています。そのこともあり、アーティスト同士の考えの違いから一瞬、ちょっとした喧嘩になってしまいました。これは絶対あってはならないことだと思いました。あくまで自分はモデレーターなのだから、アーティストがやろうとしていることをサポートする者として参加しなけらばいけなかった。これも一つの経験です。このような主催側に立つことは私の人生においてはじめてのことだったのです。
4.
以下にスタジオシリーズ(今後、スタジオラボの名称に変更)の反省点と提案を箇条書きにしたいと思います。
– 推薦される振付家の選考について。今回、キュレーターが推薦する若手振付家がそれぞれ一人ずつだった。スタジオと選ばれた振付家のロケーションが遠い場合、とても交通費がかかってしまうことや、また、選ばれた振付家がリハーサルを必要とする類いの作品を提示したいのかなど、いろいろなことを考慮しながら決める必要がある。そのため、今後少なくとも、キュレーターは3名程の候補者を推薦し、その中で、BALのコミッティ、キュレーターが共に相談し合い、最終的な決断をすることが理想。
– オープンリハーサルは、公演の3週間前か1か月前に行なう。今回は、オープンリハーサルは公演一週間前だったことで、ほとんど作品が出来上がってしまっていて、そこで得たフィードバックをアーティストが反芻し、公演前に根本的なことを吟味する時間がなかった。
– 主催者側のアーティストは、自分の私情をなるべくいれない。あくまでアーティストをサポートする側に立つ姿勢が必要。もちろん、後で、個人的に作品にたいしてのフィードバックを行なうことはOK。
– 新しい提案として、ショーケース形式にして、作品は30分以内にし、キュレーター同士の会話ができるアフタートークにも時間を割き、お客さん共々、交流の場を持つ。
このような今回の反省点、発見が、アーティスト、アートマネジメント、ダンスに携わっている方々にとって、少しでも今後の活動のご参考になればと願っております。
[やまざき・こうた|振付家・ダンサー]