インターウニ勉強会♯2レポート
Text|宮下寛司
港区で(自分なりの)生の形式を見つける
インターウニ勉強会
私はWhenever Wherever Festival 2025の共同キュレーターとして参加し、「インターウニ勉強会♯2 港区で(自分なりの)生の形式を見つける」を企画した。「インターウニ勉強会」は大学に在籍している人たちと上演芸術のアーティストおよび研究者がフラットに交流することを目標に立ちあげられた勉強会である。
2024年8月末に有楽町アートアーバニズムYAUにて#1を開催した。参加者は都内の各大学で上演芸術を学ぶコースに在籍するかそれに関する講義を受けている学生であった。ワークショップやレクチャーでの、アーティストや研究者との多様な方法でのコミュニケーションを通じて、創作の根底に流れる様々なアイデアをはぐくんだ。この時インターウニ勉強会は発表等を課していなかったが、#2となる今回はショーイングのひとつとして公開ディスカッションを行うことを踏まえて掲題の通りテーマを設け、参加者へ課題を設定した。
都市におけるライフスタイルを自分なりに作ること
WWFes2025は東京都港区を舞台に展開するフェスティバルであり、私はとりわけ都市の歴史性とその中にある批判的身体性の発見を目指していると捉えている。この勉強会がそうした課題に応答するために、現代的な都市社会のあるいは歴史という大きな構造に埋没しないでいられるような、それらをかいくぐる小さな自己の実存に気づくことができるようなアイデアを模索することを目指した。
お台場の区民センターを拠点に勉強会を月に1回、計3回行った。ゲスト講師にダンサー・振付家の木村玲奈とアーティストのsuper-KIKIをお呼びした。それに加え宮下自身がレクチャーを行った。
お台場を勉強会の会場として選んだのは、お台場が歴史的かつ物理的なはかなさを持ちつつもその一方で生活の実態が積み上げられてきたという二面性に着目したためだ。小さな自己の実存は、都市が押し付ける規範を単に無視することで獲得できるわけではない。規範は多かれ少なかれ擬制をともなって形成される。このような擬制を積極的に認め、都市の虚構性を発見し、そして都市を自分自身にとっての遊戯的な対象として見つめなおす姿勢から自らの実存を獲得できるはずだ。お台場という都市はこのような虚構性を常に突きつけてくるがゆえに魅力があるといえないだろうか。#2のタイトルにあるように、今回のゴールは都市におけるライフスタイルを自分なりに作ることである。
super-KIKIレクチャー・
ワークショップより
参加者作品
レクチャー・ワークショップ
木村によるレクチャー・ワークショップ「記憶する身体の実践的な方法」では、「都市に身をおく」をテーマに、お台場を参加者と散策した。振付家としての活動や身体についての観察を参加者と共有しつつ、移り変わる光景と身体との関係を全員で共有した。木村の振付に関するアイデアをもとに「都市に身を置くこと」を自分なりにどのように理解できるかを参加者に問いかけた。
次に宮下のレクチャー「演劇学・舞踊学における記憶する身体」では演劇学やパフォーマンス理論において「記憶」がどのように扱われているかを説明した。個人的な記憶と集合的な記憶は上演芸術において交錯するのであり、この交錯は個人と都市が相対しながら生を形作る関係に相似である。この関係を意識しながらライフスタイルを模索する個人的な記憶方法を作り出すことができないか参加者に問いかけた。
最終回の「クィア・都市・メディア」では、講師であるsuper-KIKIから「都市と駆け引きをする」をテーマに、都市社会の規範とクィアについて解説してもらった。super-KIKIは政治的メッセ―ジをデザインしたファッション・アイテムを制作し販売している。その様々なアイテムを実際に会場でみせてもらいながら、いくつかの制作方法を説明してもらい、参加者たちもまたアイテムの制作を試みた。
公開ディスカッション
2025年2月1日SHIBAURA HOUSEにて終日行われたフェスティバルのイベントの開始となる、午前中のプログラムとして、インターウニ勉強会も公開ディスカッションを行った。これまでの勉強会の内容をもとに各回に課された課題を検討した結果を発表し、それを参加者同士、そして来場者と共有した。
各人の発表を考えるための暫定的な評価軸を設定した。木村のテーマである「都市に身を置く」を“step back”、super-KIKIのテーマである「都市と駆け引きをする」を“step forward”と名付け、都市の規範的時間性からはみ出て自らのライフスタイルを獲得する2つの方向を提示した。規範的な時間の流れを中断するように身を引く“step back”と、再生産される時間構造を飛び越えるように将来に向かって何かを投げ出す“step forward”である。参加者の洞察やアイデアはこのいずれかの方向を出発点に検討される。
参加者は、小さいレクチャー・パフォーマンス、制作したアイテム、参照項としてのアート作品、テクストなど様々な方法で発表を行い、“step back/forward”を軸に意見を交換した。それぞれの発表方法に耳を傾けながら意見交換を行うことで互いの関心やテーマが重なっていく。それによりライフスタイルの発見という個人的な実践は他者との共有可能性を獲得できた。
潜在的可能性を発露させるために
インターウニ勉強会は、アーティストによる学生への教育活動を行う私塾ではない。勉強会の参加を通じてアーティストや研究者へと導くことが目的ではないからだ。概して学生は、何かしらの専門性を獲得する過程にあるとみなされており、学生主体は潜在的可能性そのもののであるものの、教育とはある専門性を実現する過程である。翻ってインターウニ勉強会は潜在的可能性それ自体を発露させるための場所である。
アーティストは潜在的可能性を直接的に引き出すわけではない。インターウニ勉強会においてアーティストは今まで発表したことのないアイデアをともに考えることが課されている。そのような未知をともに検討する場を参加者が共有することで、潜在的可能性が現われるきっかけが生まれる。そこには専門性による線引きがもはや存在しないからだ。
今回のインターウニ勉強会は、何か具体的に新しいライフスタイルを見つけることではなく、ライフスタイルは必要があれば、都市社会への見え方の変容を通じて常に作り直せることに気づくことを結果的に目指していたといえる。インターウニ勉強会が今後どのように継続するかは具体的に決まっていない。しかし、学生主体の潜在的可能性を発露させるために、どのような芸術的実践との交流が必要なのかを引き続き考えていきたい。
インターウニ勉強会♯2
港区で(自分なりの)生の形式を見つける
講師:宮下寛司
ゲスト講師:木村玲奈、super-KIKI
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レクチャー・ワークショップ
2024年11月24日・12月22日・2025年1月13日
台場区民センター
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公開ディスカッション
2025年2月1日
SHIBAURA HOUSE
Whenever Wherever Festival 2025
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宮下寛司|Kanji Miyashita
慶應義塾大学文学部・多摩美術大学演劇舞踊デザイン学科等非常勤講師。慶應義塾大学大学院後期博士課程単位取得退学。専門は日欧の現代舞踊およびパフォーマンス。現在はドイツ語圏における舞踊学や演劇学の知見をもとに、現代舞踊およびパフォーマンスにおける「主体化」についての博士論文完成に向けて執筆中。