Body Arts Laboratoryreport

1.

『英語でクリエイション』。企画者JOU本人の言葉を借りれば、これは彼女の「Act for Japan」である。多くの日本人が持つ、英語が苦手だという意識が、自分の可能性を狭めていないか、それを克服できればもっと海外で可能性を広げられる機会があるのではないか、日本語的思考と英語的思考をつなぐことができれば、日本人は変わることができるのではないか。彼女がワークショップについて語るとき、しばしば出て来た言葉が、「ブリッジ」であった。このワークショップの一番大事な目的は、「ブリッジ」を作ることである。それは、英語と日本語のブリッジ、英語的思考と日本語的思考のブリッジ、言葉と動きのブリッジ。そして実際にワークショップが進行していくと、更に、即興と振付のブリッジ、抽象的表現と具体的表現のブリッジ、演出家と振付家のブリッジもあったかもしれない。二つの異なるもののあいだで、その違いに気付き、その間を自由に行き来する方法を知る、場合に応じて必要な一方にスイッチする方法を知る、ということが、JOUの言う「ブリッジ」を作ることだと、私は思う。
具体的に、これらの考えがワークショップでどのような形になったかというと、まずは、ワークショップは全て英語で行われるということ。イングリッシュスピーカーであるYelenaと、日本人であるJOUの二人がコラボレーションという形でワークショップを進めていくこと。しかもYelenaは演出家、JOUはダンサーであり振付家という、違ったキャリアを持つ。英語チューターによる補習制度はあるが、ワークショップ中の通訳はない。
そんなワークショップに、様々なバックグラウンド、様々な年齢の人たちが集まった。ダンススタジオを主宰するダンサーや、美術館職員、映像芸術を学ぶ現役女子美大生、書道講師、中学生、体育大生、70歳のダンサー、役者、英語講師など、年齢も職業も英語レベルも、本当に様々な人たちが、この企画に挑んだ。



2.

『英語でクリエイション』は、ダンスをしながら気軽に英会話を学ぶ、という類いのものでは全くなく、海外でのワークショップ又はリハーサルそのままの状況で、最終ショーイングに向けてダンス作品を創作するというものである。英語の、ダンスや舞台の専門用語もばんばん出て来る。ときには、英語で指示されたことを理解できないうちに、実際に動いてみないといけない場面もある。参加者の中には英語があまり得意ではない人もいたが、そのような状況の中でも、しっかりとその場で出来ること、やるべきことを見極め、チャレンジし続けていた。
ワークショップでは、日本語と英語という異なる言語のあいだを、黙々と頭の中で行ったり来たりしなければいけないうえに、Yelenaから与えられるディレクションは、言葉と動きの細かい変換作業にも及ぶ。

ある文章Aを説明(explain)する文章B。文章Aを説明(describe)する文章C。日本語では「説明する」という言葉は一つしかないので、日本人であるワークショップ受講者は、まずこの、英語の二つの「説明する」の違いを理解するのに時間がかかった。そして文章Aを説明(explain)する動きCはどうなるか。説明(describe)する動きDだとどうなるか。そして更に、動きDに同意(agree)する動きEをやってみる、その動きEを否定(negate)する動きFをやってみる、という具合に、様々な「タスク」を元に、言葉と動きの変換作業を繰り返し、文章や動きを生み出していくのだ。
Yelenaは、以前から、ダンスが言語のようにレトリックな構造をもつことができるのではないかということに注目していた。ここでいうレトリックとは、修辞、美辞麗句というよりも、言い回し、文法というような意味合いである。一つ一つの動き(言語でいう単語)が、意味を持ち、それらを組み合わせることによって、見る人に、ダンスのフレーズ(単語のつながりである文章)全体の意味を理解させることができるのかどうか。そのとっかかりとして、Yelenaと私たちは、こうしてタスクによる変換作業を、言葉からダンスにも、あてはめていったのである。
この作業を、私たちは来る日も来る日も続けた。正解としての形は、誰も知らない。当のYelenaもJOUも、やったことがないのだから。しかし、この作業を繰り返すうち、私たちなりの定義がうっすらと出来上がっていった。
「explain」は「describe」より更に細かく具体的な「説明」であり、例えば、「彼女が歩いている」という基本の文章を「describe」するとしたら、「彼女というのはしずかさんで、しずかさんは青いTシャツを着て裸足で歩いている」となる。一方「explain」するとしたら、「しずかさんは今ダンススタジオにいて、歩いている。しずかさんはダンサーなのでダンスの練習をするため青いTシャツを着て今スタジオにいる。そのスタジオの床は黒い床で、少し柔らかく、ダンスをするのにちょうどいい。歩くというのは、右と左の膝を交互に曲げながら足を踏み出し前に進む動作のことで……」となる。つまり、その対象を見ることが出来ない人、そしてその動作や対象を全く知らない人に、対象の性質や理由、状況を詳しくわかりやすく説明する、というのが「explain」だと、定義づけたのだ。動きの場合でも同じで、そもそも歩いたことがない人に、歩くことを動きで「explain」するとしたら、どう動いてみせたらいいか、と考えていく。このように、この定義が、言語にもダンスにも適用できたという点では、先に出たYelenaの、ダンスにレトリックな構造を取り入れてみるという試みが、ある意味成功したと言えるかもしれない。ただ、そのダンスにおけるレトリックの法則を見いだすまでには全く手が回らなかったので、今後、個人的にも探っていきたいと思った。
また、変換作業の繰り返しの中で、「agree」には、他のタスクに比べて、賛成したいというポジティブな感情が少なからず加わるという発見もあった。そうすると、その「agree」に伴う感情は、それに対するリアクションに影響することもあり、例えば「negate」だと、「agree」を否定する強さが強くなったりもした。
こうして私たちは、それぞれのタスクの質の違い、リアクションの違いを発見し楽しむことができるようになり、それが作品の一片一片へと変化していった。

この、タスクを利用したダンスは、振付けられたものではなく、その場そのシチュエーションで生まれる即興である。元になる文章や動きによって全く異なる動きになるし、踊る人によっても様々だ。この性質は、ショーイングの作品の中でも、そのまま取り入れられた。
作品の中では、逆に、振付けられた部分もあった。JOUが振付けた、椅子を持ったダンスと、パフォーマーがペアになって作った二組のデュエットシーンである。振付の部分と即興の部分が一つの作品の中で共存するとなると、質が異なるのでどちらかが不自然に浮いてしまいがちだが、しかし今回は、即興が展開する中で振付のデュエットが始まり、そのデュエットに反応する即興があったり、または椅子の振付ダンスでは、椅子を猛スピードで旋回させる動きと同時展開し、互いのダイナミックさを引き立てあったりもしていて、作品のシーンごとの質はとてもユニークで、その移り変わりも非常におもしろかったと思う。



3.

ところで、今回ショーイングの作品の一部としては、残念ながら採用されずに終わった、幻のシーンが一つある。それは「Monster」だ。実際、本番の作品中でその単語はぽつぽつとつぶやかれていたのだが、私たちはワークショップで多くの時間を「Monster」に費やし、探求した。
そもそもYelenaが、このワークショップの名前で且つのちに作品のタイトルにもなった『英語でクリエイション』というフレーズから、「生み出されるもの、創造物、creation、creature…と考えているうちに自然とMonsterが思い浮かび、探っていきたくなった」と言ったのが、始まりだった。「Monster」と聞いてイメージするものは?英英辞典で調べる「Monster」の意味は?「Monster」をテーマに例のタスク(describe, explain, agree, negate, etc)を使って即興をすると何が生まれるか?
結果、「Monster」の数ある意味のうち、奇形児という意味をシェアした人がいれば、田舎者だからとひとりぼっちになった経験のことを、まさに自分は「Monster」だったと表現する人もいた。「Monster」を閉じ込めているかのようだったいくつかの椅子の塊が、引きずられながら、動き、形を変え、それ自体が巨大な「Monster」となり、そびえたったり。
私たちはそれまでひたすらタスクをこなし、文字通り、動きと言葉の変換作業を続けていたのだが、その「Monster」の探求の時間に初めて、ドラマチックな時間が流れ、ワークショップ参加者一人一人の背負っている歴史や恐れ、夢、愛が、形に現れたように思う。
残念ながら、本番の作品ではこのパートはあっけなくカットされたのだが……。



4.

全13回に及ぶワークショップを終えてみて。単純で、短い文章や動きほど、それを分解し掘り下げる言葉や動きを生み出すのは難しかった。しかし、単純で短いということはつまり、想像すべき見えない部分が大きいということで、いったん分解し掘り下げる手がかりを見つけると、思いがけず、膨大な情報や背景が、文章や動きとなって姿を現す。ワークショップでは、「describe, explain, agree, negate」などのタスクが、有効な手がかりとなることも多かった。「苦手なカタコトの英語」で何かを伝えなければいけないとき、そのことを覚えておくといいかもしれない。簡単な言葉を少ししか並べられない、しかし、分解し掘り下げる手段を知っておく。そうすると、短い文章の膨大な隙間の部分を、その場で言葉に変換し伝えていくことができるのではないだろうか。これは、私がワークショップでこっそりと手に入れた、英語と日本語の「ブリッジ」の一部分である。

芸術的クリエイションの場が、語学、思考の面でも実践の場であった、この『英語でクリエイション』のように、参加者が躊躇する間もなく、始めから未知数の場へ飛び込んでしまえる状況を提供できるワークショップが、これからもっと増えればいいなと思う。そこに、海外からの若い学生やアーティストも一緒に参加できるようになれば、ワークショップの意義がぐんと濃いものになるだろう。

[みついし・ゆうこ|振付家・ダンサー]


英語でクリエイション English Creation

2011年10月-2012年3月の5か月に渡り全13回のワークショップが実施され、3月4日、ショーイングが行なわれた。この企画は継続される予定。

クリエイティブディレクター:Yelena Gluzman、JOU
会場:森下スタジオ(東京)

主催:Odorujou/englishcreation実行委員会
助成:公益財団法人セゾン文化財団/EUジャパン