Body Arts Laboratoryreport

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1.

神戸野田高等学校と芦屋学園高等学校は全国規模の創作ダンス競技会「全日本高校・大学ダンスフェスティバル」で幾度も入賞している名門校である。その2校から選ばれた6名の高校生と余越保子[*1]さんが、神戸市新長田にあるNPO「ダンスボックス」の劇場で約2週間かけて一緒にダンス作品をつくり発表する企画が行われた。

余越さんはアメリカの高校生と2年かけてダンス作品をつくった経験もある人で、今回の企画は余越さんにとっては高校生と共に行うワークインプログレスだったはずだが、日本ではワークインプログレスという手法が未だ浸透していないため、発表を見た観客には完成された舞台作品と同じようなものと受け取られたようである。

発表されたワークインプログレスは、冒頭、スタッフが上演前の注意事項を説明しているなか、タイツ地の全身衣装の上に制服のようなものを着た高校生達が、元気よく客席から舞台へ向かって互いに挨拶を交わしながら上がっていく。軽快に舞台上を歩く生徒達の後ろには映像があり、建物や街中で歩く人達のテンポが刻々と変わっていく。入れ替わり立ち替わりで登場する高校生達を目で追っていると、それぞれのキャラクターが少し見えてくると同時に、トレーニングされた動き方をしているのがわかる。床に数字を並べる女の子。それを交代に拾い上げて彼らにしかわからない内容を一人ずつ話し、動いていく。

途中perfumeの“チョコレート・ディスコ”も踊っていたが、最近流行りのyoutube、ニコニコ動画で高校生が「アイドルやアニメの曲を踊ってみました」というような動画に見られる踊り方と違い、彼らの踊りは訓練されたダンス部の踊り方であった。全体を通して、地の彼らを引き出すにはもう少し時間が要るのではと感じた。

ワークインプログレスを始めるに際して、余越さんは高校生達に自分たちのレパートリーはないのかと聞いたところ、彼らはフェスティバルで賞を取った時の作品をやりたいと言ってきたそうだ。フェスティバルの時に互いの高校の作品を見ているだけに、自分たちの気になっていた箇所を習い、教え合い、舞台の終わりには賞を取ったフェスティバルの映像をバックにして踊り、今の自分達の成長を見せるというものであった。

2.

今回の企画は 二つの立場からの働きかけがなければ産まれなかった。ひとつは生徒にダンスに触れる機会を増やし、彼らを育てたいと考えているダンス部顧問であり、もうひとつは地元と関わりを持って発展していく必要性がある劇場である。今回余越さんを招いたプログラムディレクターの横堀ふみさんはプログラムにこう書いている。
「創造は限りなく自由な地平の上につくることができること、目を凝らし、耳を澄ませながら、ダンスをつくり続けてほしい、もしくは関わり続けてもらえたら、そのように思います。」

発表後のアフタートークの中で高校生のひとりが、普段は音楽とテーマなどが先にある状態から創作をしていて、何もないところから即興をして発展させる作業をしたことはないと発言していたが、それはダンスのトレーニングとしてベーシックなことではないだろうか。

日本における学校教育のダンスは、明治期の西洋文化の移入、そして戦後はじまった創作ダンス、その後地域に根ざした生涯学習におけるダンスというように、社会の流れと共に独自な発展をとげてきた。現在中学、高等学校の教職課程でダンスは必修となっており、創作ダンスをつくれる先生が必要な人材となっている。そして創作ダンスを指導出来る人材は大学の体育学部で育成している状態である。
結果、多くの創作ダンス部の指導者は大学の体育学部の出身ということになり、例えば今回の企画の余越さんのようなアーティストを劇場と学校教員が企画を立てて招聘するようなことはあまり行なわれておらず、劇場と地元の高校は関わりを持てていない現状がある。

しかし、今回の企画のように高校生の時期に余越さんのようなひとりのアーティストの考え方や生き方に出逢うことで、今までとはまた別な視点で今後の糧となるものを見つけることが出来るかもしれないし、(継続が難しくても)長期に渡って同じ生徒とアーティストの真摯なやり取りが行なわれる機会があれば、その試みの先に高校と地元の劇場の関係から新たなモデルとなるものが生まれていくかもしれない。

例に挙げれば、金沢の美術館では地元の美大の卒業制作展や学生、団体客に対する鑑賞教育活動などを行なっている。またフランスの劇場にはダンス、演劇、美術、学校などの施設があり、年間の舞台スケジュールの他、地元の学生、一般に向けたプログラムも行なっているため、映画鑑賞、レクチャー、コンサートなど多様な使い方がなされている。

最後に、教育機関の門戸の狭さを拡げるためには、ダンスを体育の教科だけでなく音楽や美術、文化学習とも関連させ理解を深めることも大きな助けとなる。システム、メソッド重視ではなくセルフコーチングを促すクラスを取り入れ、若手アーティストを非常勤講師として学生と対峙させることは相乗効果をうみ出す可能性がある。各々の学校の状況に合わせた内容を、学校教員、学生、アーティスト、コーディネーターと共同で話し合って進めていけば自ずと特色のある豊かな内容に変わっていくだろう。学校に通っているうちに自然と文化に触れられる環境がこれから多く出来てくること期待する。

レポートを書くにあたって協力して頂いた市川さん、日田さん、糸井さんにこの場を借りてお礼申し上げます。

[おおとし・めり|振付家・ダンサー]


余越保子×高校生 ダンスプロジェクト お披露目の会
―神戸野田高等学校&芦屋学園高等学校 創作ダンス部

振付・演出:余越保子(NY)
出演:再本舞菜、米澤百奈(神戸野田高等学校)、
池上拓磨、泉優里奈、平屋江梨、森本麻美(芦屋学園高等学校)
主催:NPO法人 DANCE BOX

2011年2月20日
Art Theater dB 神戸

  1. 余越保子Back[よこし・やすこ]長期に渡り米国で活躍する振付家。『ダンスマガジン』誌上で注目する25人の作家に選出され、過去2回ベッシー賞振付最優秀賞(年間を通してニューヨークで上演されたダンス、パフォーマンスを対象として年間の評価と、それまでの業績に対して贈られる賞)を受賞している。